■1.日本は、難局を好機として一層の飛躍を成し遂げる国■
麻生太郎氏は幼い頃、祖父・吉田茂からよくこう聞かされていたという。
日本人のエネルギーはとてつもないものだ。日本はこれから必ずよくなる。日本はとてつもない国なのだ。
その予言通り、日本は敗戦の瓦礫の中から立ち上がって、あっという間に世界第二の経済大国を築き上げるという「とてつもないエネルギー」を見せた。
その麻生氏がいよいよ首相となって、所信表明の冒頭でこう国民に呼びかけた。
この言葉よ、届けと念じます。ともすれば、元気を失いがちなお年寄り、若者、いや全国民の皆さん方のもとに。
申し上げます。日本は、強くあらねばなりません。強い日本とは、難局に臨んで動じず、むしろこれを好機として、一層の飛躍を成し遂げる国であります。
「日本はとてつもない国なのだ」という祖父の言葉が基調にある。その「一層の飛躍」の方向を指し示しているのが、「自由と繁栄の弧」というビジョンである。
■2.「自由と繁栄の弧」の公約■
麻生首相は、安倍政権の外相時代に、「自由と繁栄の弧」を築くことを公約として掲げている。
我が日本は今後、北東アジアから、中央アジア・コーカサス、トルコ、それから中・東欧にバルト諸国までぐるっと延びる「自由と繁栄の弧」において、まさしく終わりのないマラソンを走り始めた民主主義各国の、伴走ランナーを務めてまいります。
この広大な、帯状に弧を描くエリアで、自由と民主主義、市場経済と法の支配、そして人権を尊重する国々が、岩礁が島になりやがて山脈をなすように、一つまたひとつと伸びていくことでありましょう。
その歩みを助け、世界秩序が穏やかな、平和なものになるのを目指すわけであります。
■3.「自由と繁栄の弧」への国際的反響■
平成18(2006)年11月、デンマークのアナス・フォー・ラスムセン首相が来日した際、麻生氏は外相として、新機軸の「自由と繁栄の弧」を説明した。ラスムセン首相は説明が終わるや、この構想を「全面的に支持する」と断言し、かねてから持論のNATO(北大西洋条約機構)と日本の関係強化を主張した。すでにNATO加盟国海軍は弧の西側から、そして日本の海上自衛隊は東からせり出して、インド洋やアラビア海で海上ルートの安全を守るべく、協力している。
この後、麻生外相は東欧を訪問したが、その最中にも米国はもとより、欧州各国から熱烈な支持を伝える電報が次々と寄せられた。
しかし、この構想に反発する向きもある。共産党独裁政権のもとで「自由なき繁栄」を追求する中国は「自由と繁栄の弧」を反中包囲網と捉えたようだ。中国が民主化して、政治的自由が確立された暁には、「自由と繁栄の弧」の重要なメンバーとなろう。それこそが、「弧」の他のメンバー諸国にとって望ましいことあり、また中国の国民の幸福にとっても必要なことである。いかにして、中国をそのような方向に向けていくのか、これが「自由と繁栄の弧」実現への最大の難問であろう。
麻生氏が首相としての所信表明の中で、「自由と繁栄の弧」という表現を使わなかったのは、中国側の反発を考慮してのことだろう。しかし、外交に関する原則では次のように述べている。
我が国が信奉するかけがえのない価値が、若い民主主義諸国に根づいていくよう助力を惜しまない
「自由と繁栄」への志は首相の胸中に燃えさかっている。
■4.成功例としてのカンボジア■
我が国が、実際、どのように「自由と繁栄の弧」を実現していくのか、具体的な事例を通じて語った方がよいだろう。日本が後押しして、「自由と繁栄」に向けて走り始めた国の一つにカンボジアがある。
カンボジアは極端な共産主義を掲げるポルポト政権のもと、100万人以上と言われる犠牲者が出た。その後もベトナム軍の介入や内戦が続いた。1992年、明石康氏を代表とする国連の平和維持活動(PKO)が開始され、日本の自衛隊が初めて本格的に参加した。
翌年には、日本の警察、民間ボランティアも協力して、民主選挙が行われた。この時に命を捧げたのが、高田晴行警視正と民間人ボランティア・中田厚仁さんだった。
その後、議会で新憲法を発布し、立憲君主制が採択された。さらに法律の整備も進み、裁判官や弁護士を育てる学校もできたが、その学校の先生を育てる仕事を、日本の法務省の「法務総合研修所」所属の3人の女性検事、判事補が担当した。
「自由と繁栄」を実現するには、選挙制度、法整備、人材育成など「基盤作り」の実務が不可欠であり、こういう面でも我が国は地道に支援をしてきたのである。
いまやカンボジアは、スーダンにPKO部隊を送って、平和構築を助ける側に回った。こうして「自由と民主主義、市場経済と法の支配、そして人権を尊重する国々」が、「岩礁が島になりやがて山脈をなす」ようにつながって、「自由と繁栄の弧」をなしていく。
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2498 麻生ビジョン「自由と繁栄の弧」(1) 伊勢雅臣

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