2527 内情バラバラの台湾国民党 宮崎正弘

中国国民党は孫文が創設し、蒋介石が引き継いだ。独裁強権政治で戒厳令を敷いて台湾を治めたが、民主化以後、野党に転落し、ようやく2008年3月の総統選で政権の座に返り咲いた。
そこまでは良かったが、権力回復後も党勢の伸び悩み、党内不統一、リーダーシップの欠如。というより国民党のなかは各派閥の同床異夢、呉越同舟の状態である。
強い党指導者の不在で、あの国民党、じつは内情ばらばらなのである。
第一に資金面を長老達と組んでまだ牛耳っているのは連戦名誉主席だ。かれの周りには中華思想を奉じる蒋介石残党や高級軍人OBが固め、尊大ぶって権限を呉伯雄主席に全面譲渡しない。
連戦は過去の政治家というイメージを別にして、APEC特別代表に馬総統から指名されるや(というより自分から売り込んだらしいが)、いそいそとチリへでかけ、そこで胡錦涛と会談した。
 
第二は政治的動機が曖昧化している事実である。呉伯雄・国民党主席は本省人であり、実兄はかつて国民党独裁時代に残酷な方法で虐殺された。その呉が国民党を主導するのも奇妙な話だが、国会を牛耳る王金平(国会議長)も本省人であり、いわば執権党の利権にすりよっている連中である。
第三に実務派が不在で、党主席であるべき馬英九総統がそもそも金銭スキャンダルで党首を辞任したあたりから国民党組織はがたがたしているのだ。
党勢を挽回しようと国民党は11月22日に台北の国父記念館で臨時党大会を急遽開催し、「副主席」を8人体制とした。
「ん?」。要するに団結をジェスチャーで内外に示す必要があり、実力者を各派から配置しただけにすぎない。
副主席にあらたに選ばれたのは蒋考厳(蒋介石庶流)、朱立倫(桃園県知事)、黄敬惠(嘉義市長)、曽永権(国会副議長)、呉敦義(党秘書長)ら。とくに朱立倫は、四年後の馬英九の最大のライバルとなると言われるため注目だろう。
この臨時党大会は孫文の銅像に花束を馬英九が捧げて参加者全員で敬礼し、大同団結を謳った。スローガンは「同船共済、戦勝逆境」。当面する経済的難題のために党をあげて前進しようというもの。
嘗ての国民党は「党政合一、権力一元」による強い政治を発揮した。
いまの党は執行部の指導力が希薄で、各派のバランス均衡、高層部は行政能力不足、形式重視という矛盾を含んでいる。
▲台湾の主権は行方不明ではないか
他方、陳水扁前総統の逮捕から距離をおく最大野党民進党は台湾独立派などの諸団体と共闘態勢を強化しつつ、連日のように政府批判の集会を各地で開催している。
とくに民進党が主張しているのは「台湾の主権流失」と「人権」意識の希釈化、デモクラシーの大幅な後退、強権政治は戒厳令下と同じではないか、黒金(やくざ、選挙買収など)政治の復活であるとして、北京に急傾斜する馬政権をつよく批判してきた。
雑誌『遠見』の世論調査は、支持率僅か28%でしかなかった。
著しい譲歩を北京に繰り返して、台湾国民の尊厳を踏みにじり、台湾の主権を主張せず、ひたすら北京とのビジネス拡大だけが台湾の国益と勘違いする馬英九政権は、結局、台湾を北京に売り渡す先魁を演じているだけではないのか、とする不安が、経済の失速、失業の増大、株価急落という台湾の暗い状況の中で拡大しているからだ。
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