■先週末、夜回りのタクシーの中で、ラジオが流れていて、麻生首相の漢字が読めないことや失言・放言の多さについて、パーソナリティーとコメンテーターがこき下ろしていた。すごいな、公共の電波で自国の宰相をここまでばかにできるなんて、中国人記者が聞いたら目を丸くするだろう。かの国ではこのラジオの100分の1の毒や批判ですら、番組制作者のクビがとび、労教(労働教養所労働による思想改造施設)おくりになりかねない。
■で、そのラジオを聞きながら運転手さんにも聞いてみる。「麻生首相をどう思う?」。そうそう、北京でもタクシー運転手さんと、よくこんなおしゃべりしたなあ、と思い出しながら。中国のタクシー運転手さんにこういう質問をすると、共産党は汚職だけらけでけしからん、という話でもりあがる。公共の場では、共産党万歳といっていても、外国人に対しては、共産党への不満を隠さない。
■で、その日、私が乗りあわせたタクシー運手さんの麻生首相評とは、「とてつもない金持ちですけれど、まあ、頭は並以下の人ですな」というものだった。「漢字が読めないのは、官僚の作った文章をそのまま理解しないで読むから。思いついたことをぱっぱっといってしまう人だ」とも。
■福島「でも、ブッシュ大統領も失言で有名なんですよ。英語のスペルもよく間違って、ブッシュ英語と国民から笑われていたけど、8年も大統領勤めあげた」
運転手「ブッシュさんも頭が悪かった」
福島「だからアメリカの経済が悪くなった?」
運転手「麻生さんだと、日本の経済どうなるんですかねぇ。いまひとつ不安です」
福島「周囲のブレーンの意見に耳を傾ける柔軟さがある方が、なまじっかな切れ者よりいいうまく行く場合もある」
運転手「麻生さんの経済ブレーンって誰ですか」
福島「…誰だろう?与謝野さんとか?」
運転手「あまり、頼りになりそうではないですね」
福島「なら、民主党の小沢さんがいい?」
運転手「あの人はダメダメ」
福島「なぜ?」
運転手「小沢さんは本当にダーティな人。あんな人に任せたら日本は食い物にされる。頭はよさそうですが、腹黒すぎる」
福島「麻生さんはクリーンなのか」
運転手「まあ、もともととてつもない金持ちですから、そんなに金に執着するタイプではないでしょう」
福島「クリーンだけど切れ者でない、切れ者だけどダーティ、どちらかをリーダーに選ばねばならないとしたら…」
運転手「うーん、クリーンな方ですね」
このあたりは、いずこも同じ感情だろうか。
■閑話休題。国家指導者のイメージと外交について、今エントリーでは考えてみたい。日本では最近はもっぱら失言とか迷走とかのキーワードで、嘲笑の対象のように報じられることの多い麻生首相。海外で麻生首相はどんなイメージで見られているのか。特に、私の前の勤務地であった中国では、麻生さんはどんな評判なのか。まず、最近の中国記事で麻生首相ネタをひろってみる。
■環球時報の特約記者は、共同通信やワシントンポストを引用しながら金融サミットでの麻生首相について次のように報じていた。
「先週のワシントンで開かれた金融サミットでは、世界のメディアは日本にさほど注目しなかった。日本メディアはこれを反省の思いをこめて、宣伝不足だったとしている」
■「共同通信によれば麻生太郎ら20カ国の首脳が出席した金融サミットでは日本の存在感が非常に希薄であった。日本は世界第2位の経済大国であり、過去に金融危機を克服した経験もあり、今サミットでは主導的役割を果たすにたる十分な条件があり、麻生も勢いこんでワシントンにのりこんだというのに、彼の声はうもれてしまった」
■「金融サミットの宣言草案には日本の主張がちゃんと反映されていた。しかしサミットにおいて日本の影はうすかった。IMFに対する1000億㌦の融資の用意表明は、ワシントンですらニュースになっていない」
■「麻生はワシントンポストの取材を受け、1000億㌦の融資について宣伝したが、それは1行の記事にもならなかった。また麻生はウォールストリートジャーナル(アジア、欧州版)に投稿したが、その投稿も掲載されていない。サミット後の麻生の記者会見にも外国メディアは数社来たのみだった」(以上引用)
■せっかくいい提案したのに、冷たくあしらわれてかわいそうだ、と言わんばかりの、そこはかとなく日本をフォローするような書き方だと感じないだろうか?しかも、ワシントンは日本に冷たいよ、といっている。(中国は麻生首相がASEMで北京にきたとき、特別の礼をもって遇し、CCTVで単独インタビューを流したのにね!といいたい?)
■次ぎに、中国論評ネットと呼ばれるネチズンの論文投稿サイトで、クローズアップされていた「麻生さんのために私はちょっといいたい」という論文。これは田母神論文が中国でも話題になったあとの普通の中国人(福建省の企業社員)の麻生評だが、かなり好意的。
■「麻生はかつて日本の政治家の中で、日本侵略の歴史を美化した右翼の代表的人物で、小泉政権の外相時期、中日友好協力発展会見を破壊せんとする言論を絶えずしており、このため中国人民の目からみてまったくよい印象はない」
■「麻生が親中派の福田首相の地位を引き継いで以降、多くの中日関係筋は非常に心配した。麻生が昔のように中国に対し友好的でない態度なら、中国人民の感情を害して、また中日関係を深刻な試練にさらし、後退するのではないか、と」
■「いまのところ、麻生が首相になったのち、過去の中国に対する非友好的態度を継続していないだけでなく、中国との友好関係を強化しようという意思表示をたえずしており、実際に行動した。まず中国を訪問し、訪問期間を利用してメディア(CCTV)を通じて中国人民にむけて、過去の侵略の歴史に謝罪の意を表し、同時に中国改革開放以来の巨大な成果を賞賛し、中日民衆の多層的、多領域の交流と協力をもって共同発展の目標を実現せねばならないと語った」
■「これだけでなく、麻生は中国の力強い発展にたいして、脅威とみるどころか、日本の発展のチャンスであるとみている。とくに、着目にあたいするのは、田母神俊雄・航空幕僚長の侵略美化論文が発表されたのち、すぐに田母神俊雄の職務を解任した点である。かつ明確に田母神論文は不適切である、とした。戦後日本の歴史上、言論によって即刻免職となるのは非常に珍しいことだった。(後略)
■だから、麻生さんはかつての鷹派右翼ではない、もう変わったんだ、日本と仲良くしよう~という結びになっているわけだ。こういう公のメディアの論評は中国の政策方針をかなり反映しているはずだから、中国としても麻生首相イメージアップをはかっているわけだ。極めつけが解放日報紙が報じた「麻生が漢字をしらないことから話はじめて…」という、上海国際研究院日本室副主任、廉徳カイ(王へんに鬼)氏のコラム。要約してみると。
■「中日は同文同種だろうか。反中的な人は、違うというだろう。しかし、漢字という点でいえば中日は少なくとも同文的であろう。」
■「4世紀ごろ、朝鮮人が日本に論語と千字文をもたらして以来、日本は漢字をずっと手放さず、漢字への尊重も弱まることなく、漢字をよく掌握しているものへの尊敬も変わらなかった。そしてつまるところ、それは中国文化への崇拝もゆらがなかったということである。漢字が一字もない文章は人に笑われる。最近麻生太郎がいつも漢字を読み間違っていることでメディアから批判をうけている」
■「もともと、マンガが大好きなこの方は、英語は通訳なしでオバマ次期大統領と会話するほどなのだが、どういうことか漢字が読めない。母校の学習院大学でおこなわれた中日友好交流活動のときも、頻繁(ヒンパン)をハンザツとよみ踏襲(トウシュウ)をフシュウと呼んだ。そのほか前場(ゼンバ)をマエバとよみ、有無(ウム)をヨウム、詳細(ショウサイ)をヨウサイとよむなど、高等教育を受けたようには思えない。そういうわけで、日本メディアが、太郎、マンガばっかりよまずに勉強せよ、と言うのも責められまい」
杜父魚ブログの全記事・索引リスト(11月21日現在2524本)
2528 中国は麻生首相をどう報道しているか(1) 福島香織

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