新型「民工潮」は都会から地方へ逆流。すでに数百万人の環流流民。中国経済、いよいよ未曾有の大破綻、それも唐突に超弩級に。
▲この異常な帰郷ラッシュの群れ
先々月、上海から南京を長距離バスで往復した。午前七時に上海駅北口の長距離バスターミナルで、チケット売り場に並んで、ようやく購入できたチケットは二時間後の九時半出発。つまり三十分ごとにある定期バスがずっと先まで満員なのだ。
帰路、南京からは早朝からチケット売り場に長い長い列。咄嗟の判断で、臨時便のチケットをダフ屋から買った。それでも午前7時にターミナルへ行って、乗ったのは八時半、上海着は午後一時過ぎとなった。オフシーズンなのに、この異常事態は何事か、訝しんだ。
珠江デルタの生産基地(「世界の工場」と言われた)で工場閉鎖が相次ぎ、有名な玩具工場では倒産と給料未払いに激怒した工員ら二千人が、ロックアウトされた会社へなだれ込み、コンピュータをたたき壊し、駆けつけてきたパトカーを横転させて燃やした。
広東省では上半期だけで六万二千社が倒産し、台湾企業経営者は夜逃げ、香港系は逃げても追いかけてくるので米国へトンズラ。繊維、玩具、雑貨産業はとうにベトナムへ工場を移転させた。
中国の「人力資源・社会保証部」の伊セキ民・部長の推計では、江西省から各地への出稼ぎは680万人、このうち30万余がすでに江西省に帰省した(江西省は上海や浙江省への出稼ぎの拠点)。
湖北省には過去二ヶ月だけで、都会で失業した30万余が帰省した。湖北省の省都・武漢市当局の予測では最終的に80万人の労働者が、いずれ近いうちに湖北省に帰郷するだろう、としている。
中国の農民は8億人前後である。都会への出稼ぎは1億3000万人と見積もられるが、このうち8000万人が帰省した場合、勿論、彼らには田畑がないから、事実上のルンペンとなる。
「もっか、安定社会を最大級に脅かしているのは、この民工の逆流現象である。かれらの最就労機会を地方政府が促進しない限り、安定社会は維持できない」(孟建柱・国家公安部長)
▲世界金融危機が中国を直撃している
上海郊外の工場地帯から広東一円にかけて閉鎖、企業倒産のあおりを受けて暴動が頻発、この激しい労働者の怒りの隊列は北京市内でも見られるようになった。北京五輪から僅か三ヶ月で、この惨状である。
第一に世界金融危機が直接もたらした悪影響だ。
アメリカの購買力減退や毒入り食品、玩具などで輸出が激減したことに加えて、NYの銀行が麻痺し、資金不足のためLC(銀行信用状)を開設出来なくなったからだ。
12月4日からの米中戦略的経済対話で、ポールソン財務長官と王岐山副首相との間の合意とは、お互いに信用枠をLCに替えて新たに政府が設定し、この危機を逃れようとするもので、米側が120億ドル、中国側が80億ドルの上限を設定したほどだ。
第二は中国が制定した新雇用法(労働合同法)に関係する。
十年以上のベテラン社員には終身雇用待遇を義務づけたほか福利厚生の強化が謳われた。その結果、企業はベテラン社員の首切りを始めたのだ。
「アジア製靴連盟」の推計では、同法施行直後から毎月5,6000メーカーが操業短縮、工場閉鎖。零細企業六万社がビジネスをやめたという。
「香港製造商業連盟」に拠れば、新法制定以来、工場の製造コストが15%程度はねあがり、このまま福祉や休暇増大、そのうえ賃上げを認めれば、とても製造業は立ちゆかないとの結論に達したという。
第三に社会を覆う不穏な空気だ。
REIT(住宅投資信託)のインチキ商法や原野商法に引っかけって投資家らの「金返せ運動」が各地で暴動を引き起こしたのは既に日本のマスコミも報じた。
新型の一例がタクシーの連続的ストライキである。とくに新興都市のタクシーは農家出身者で高利貸しや親方から資金を借りての深夜営業組が多く、そこへやくざが絡む「白タク」が当局と警察に賄賂をおくって不法な営業を始めるから揉めるのだ。
▲タクシーのストライキが地方都市の交通を麻痺
タクシー・ストの端緒となったのは重慶市で、白タクの存在に抗議した正式のタクシー乗組員が8000台のタクシーを動かさなくなったため、交通が麻痺状態に陥った。
この動きは海南島の三亜市に飛び火し、次に湖北省刑州、甘粛省蘭州、広西省北海、福建省甫田、広東省潮州、仙頭、東莞、茂名など合計十五都市にまたたくまに広がった。
これらの地域はやくざが多い場所としても知られる。
第四は農地法改正である。
或る農民によれば「農地へ課税させるのが毎年3500人民元もあっぺ。これで家族五人は食べられないべ。だから月給800元でも、都会へ出稼ぎに出んだべ」と語っている(台湾の有力紙『自由時報』、12月3日付け)。
農薬と肥料付けの中国農業は金融の問題がきわめて不透明、くわえて農地の所有権や転売規制の緩和などがあって、畢竟するに農民が裨益せず、利権を独占するマフィア、地方幹部の暗躍が、法改正をむしろ法改悪へと結果させている。
ひとしきり「二月危機」が懸念されるけれど、二月の旧正月を待たずして、中国経済は未曾有の混沌に陥るだろう。
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2556 中国経済が未曾有の大破綻へ 宮崎正弘

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