<かつて国際列車「オリエント急行」の終着駅だったトルコ最大都市イスタンブールで、英推理作家アガサ・クリスティが定宿とした名ホテル「ペラパラス」の修復作業が本格化している。約120年前に欧州からの乗客向けに建設された当時の輝きを取り戻そうと、来年11月の再オープンを目指して全面改装作業が進んでいる。クリスティは名作「オリエント急行殺人事件」をここで書いたとされている。(イスタンブール共同)>
トルコのイスタンブールに行ったら、ホテル「ベラ・バラス」に一番先に行きたいと思っていた。1883年にパリとコンスタンティノーブルを結ぶオリエント急行が開通した。日本の明治16年に当たる。
前年に伊藤博文が新憲法制定のために渡欧して各国の憲法を調査している。新橋と横浜間に鉄道が開通したのは1872年、文明開化の”岡蒸気”が走ったと話題になった。
「ベラ・バラス」はオリエント急行に乗って、神秘に満ちたオリエントを見ようという王侯貴族など上流階級の人たちを泊めるホテルとして1892年に建てられた。ホテルの411号室はアガサ・クリスティーの部屋となって、ネームプレートが付けられているという。
伝統の歴史を刻む六階建ての高級ホテルで411号室のツインルームは浴室が広く造られている。レストランは二つあるが、いずれも天井が高く、ノスタルジックな椅子が置かれたカフェもある。アンティーク好みの人たちのとっては魅力あるホテル。
物好きと言われそうだが、この雰囲気とアガサ・クリスティーの部屋を見るために一度はイスタンブールに行くつもりでいた。アガサ・クリスティーの名作「オリエント急行殺人事件」は、この411号室で書かれた1934年の作品。
120年前の建物だから修復の必要が出たのであろうが、「ベラ・バラス」の輝きだけは失ってほしくない。東洋と西洋の結節点であるイスタンブールには毎年、観光客が押し寄せる。新市街地には高級ホテルや外国系のホテルが多い。「ベラ・バラス」は新市街地にある。
だが世の中は私のような物好きは少ない。歴史と伝統の香りよりも、アメリカ型の超豪華ホテルの方が外国人客には人気がある。今でも世界一の読者を持つアガサ・クリスティーの推理小説だが、活字離れは世界を覆っている。411号室を見るために「ベラ・バラス」を訪れる人も年々減ってきているのではないか。
360室ある「ハイアット・リーンジェンシー」はハイテクを駆使し、広い客室と洗練されたサービスの豪華ホテル。大きなプール、ヘルスジム、イタリア料理や日本料理のレストランがあるし、ライブ演奏のジャズバーまである。
人間が贅沢になったから「ベラ・バラス」よりも”ハイアット”という風潮があるのではないか。そんなことを考えながら「イスタンブール共同」の記事を読んだ。新聞にはあまり出ていないが、それだけ世の中が忙しく、安直になったのであろう。寂しいことである。
杜父魚ブログの全記事・索引リスト(12月6日現在2568本)
2587 ホテル「ベラ・バラス」の輝き 古沢襄

コメント