2645 胡錦濤戦略は完全な誤り、有害な学説 古沢襄

産経新聞の伊藤正・中国総局長が書いた「発展には軍事力が必要」というレポートは、「平和と発展」戦略に徹する胡錦濤路線に、軍部筋の根強い反対があることを示した。その具体例として、軍長老の遅浩田・前中央軍事委副主席兼国防相の回想記を取り上げている。
伊藤正氏は共同通信社時代から卓越したチャイナ・ウオッチャーと言われてきた。北京にいる外国人特派員の中でピカ一の存在である。
中国は鄧小平路線の忠実な継承者である胡錦濤体制が、北京オリンピックを乗り切り、ようやく政権基盤を固めようとしている。しかし台湾武力解放、米国打倒と日本殲滅を唱える解放軍内の強硬派は、ますます胡錦濤批判を強めている様である。伊藤氏は「中国軍が何を目指しているか、平和ボケしてはいられない」と警鐘を鳴らしている。
<12月3日付の中国人民解放軍機関紙「解放軍報」は1ページをつぶし、軍長老の遅浩田・前中央軍事委副主席兼国防相の回想記を掲載した。その数日後、軍事系など複数の中国国内のサイトに、遅浩田氏名の「発言」が相次いで現れた。
この発言は、2005年4月の中央軍事委拡大会議での講演とされ、内容の一部は当時、海外に流出したが、偽造説もあった。台湾武力解放のみか、米国打倒と日本殲滅(せんめつ)を主張、核使用さえ肯定する過激な内容で、退任(03年)後の発言とはいえ、荒唐無稽(むけい)すぎるとみられたからだ。
しかし、消息筋によると、発言は本物であり、各サイトから削除もされていない。遅氏がこの発言をした当時、各地で反日デモが吹き荒れ、陳水扁総統ら台湾独立派への非難が高潮していた。劉亜州、朱成虎将軍らの強硬論が跋扈(ばっこ)し、朱将軍は対米核攻撃の可能性さえ、公然と唱えていた。
彼らの主張は、遅浩田氏のそれと同工異曲だった。そのポイントは、胡錦濤政権の「平和と発展」戦略に対する批判である。同戦略は1984年にトウ小平氏が唱え、87年の第13回党大会以来、継承されてきた党の基本路線であり、基本的な世界認識である。
しかし遅浩田氏は、同戦略はいまや限界に達し「完全な誤り、有害な学説」と一蹴する。なぜなら一国の発展は他国の脅威になるのが古来、歴史の法則であり、「戦争権抜きの発展権はありえない」からだ。
同氏は、中国が発展する中で中国脅威論が起こったのは当然とし、日本はかつて、中国の発展を阻止するため侵略戦争を起こしたとの見方を示した上で、今日、日米は再び中国の発展権を奪い、現代化のプロセスを断ち切ろうと決意していると主張。
さらに「例えば中国が原油を2010年に1億トン、20年に2億トン購入するようになれば、列強が黙っているだろうか」と反問、「軍刀下での現代化が中国の唯一の選択」と強調して、戦争への準備を促している。
こうした胡錦濤政権の対外路線と真っ向から対立する主張が、なぜいま、軍事系や民族系のネットに再登場し、多くの支持を得ているのだろうか。
遅浩田氏が当面の急務に挙げているのは、「三島」問題だ。台湾、尖閣諸島、南海諸島を指す。講演当時は台湾解放に最重点が置かれたが、最近の台湾情勢の変化で、武力解放の可能性が遠のいた。
海洋権益の拡大に努める中国海軍の当面の戦略目標は、東シナ海にあると西側専門家は指摘する。04年には中国原潜が石垣島周辺で日本領海を侵犯する事件があったが、今月8日には中国の調査船が尖閣諸島海域を侵犯したのもその表れだ。
前者については中国政府は遺憾の意を表明したが、後者については中国固有の領土と強弁した。しかし中国の対日友好協力路線とは相いれない行動であり、中国政府の指示ないし容認があったとは思えない。
遅浩田講演がいまネット上に公開された背後には、国防力強大化を追求する軍の強い意思があると専門家筋はみる。遅浩田氏は現役時代、航空母艦保有をはじめ、装備近代化を強く主張してきたタカ派として有名だった。
そしていま、中国海軍にとっては、飛躍への絶好の機会が訪れた。ソマリア沖への艦艇派遣である。中国の艦船が領海外へ戦闘目的で遠征するのは初めてだ。海賊退治の国際協力というお墨付きがあるものの、中国軍が本格的な空母艦隊を保持する大きなステップになるだろう。
遅浩田講演を紹介した文章は、同氏が、かつて日本に対処する特殊兵大隊を編成したが、平和な時代には不要として解散させられたとし、日米が絶えず中国を刺激する悪しき結果を招いたと述べている。中国軍が何を目指しているか、平和ボケしてはいられない。(産経)>
杜父魚ブログの全記事・索引リスト(12月24日現在2629本)

コメント

タイトルとURLをコピーしました