■カール・クロウの名著「支那四億のお客様」のもじりで「支那13億のお客様」というタイトルにしようと思ったのだけれど、支那と使えば差別用語だといわれかねないので、CHINAとあてた。これ、ポルトガル風発音だとシナとよめるよね。支那という言葉は、歴史的経緯から差別語的な位置におとしめられたが、もともとは清(チン)とか秦(チン)とか中国の王朝の音がフランスやポルトガル風に読まれた言葉に漢字が当てはめられただけの普通の言葉ではなかったっけ。
■ちなみに、カール・クロウは、1911年に上海にいき、25年間滞在した、西洋式広告代理店の草分け的存在で、中国で石けんから自動車まで宣伝しまくり、ジャーナリストとしても活躍し、第一次大戦中、日本の対華21箇条要求をスクープしたのも彼である。彼の見た当時の中国を描いた名著「支那四億のお客様(400 Million Customers)」は数年前に、連合出版から復刻版(初版は1937年)が出ているのではず。とっても面白いので、良かったら書店で探してみて。
■なんで、こんなタイトルをつけたのかというと、今、世界が不況を脱する方法として一番期待しているのがCHINA13億のお客様であろう、という話を書こうとしているからだ。しかし、今回、3泊4日の短い北京訪問中におもったのは、果たしてCHINAに13億のお客様(消費者)は存在しうるのだろうか、ということだった。
■世界不況脱出の鍵はCHINA13億のお客様
その内訳は、債務者と貪官、そして世界最強のモンスターカスタマー?
■すごく荒っぽい福島流の理解でいえば、いままでの世界経済は、米国3億人のお客様が支えていた。日本のトヨタの高級車レクサスなんて75%が北米で売れていたし、中国甘粛省産の上質のリンゴは大方が米国人がジュースとして飲み干していた。
米国は米国債とかがんがん発行して、海外から金をかき集めて、それを米国人消費者に貸し付けて、米国人消費者は借りた金で世界からがんがん買い物をし、外国は米国人消費者が支払った代金をためて、また米国債を買う。
そういう風にドルがぐるぐるまわって成り立っていた世界経済なのだが、3億人のお客様の借金が日に日にかさばって、気が付けば、もう絶対返せない破産状況に追いつめられていたのである。
■米国経済の破綻は、つまり消費者がもうモノが買えなくなった、ということだ。たとえ米国経済がある程度持ち直しても、これからは米国人も身の丈にあった消費で質素に慎ましく生きていくしかない。
■ならば、世界の商売人たちは新しいお客さま、金払いのいい新規の顧客を開拓せねばならない。いったいお客様はどこにいる、と見回して、あの5年にわたる奇蹟の二ケタ高度成長をとげた13億人人口のCHINAがあるじゃないか、とみな思うわけである。
■で、日本はどうしたか、というと、一応、ドル基軸を維持する
立場を表明し、その証にドル一極経済の象徴たるIMFの基盤を強化するために1000億ドルの融資を約束し、中国にもドル基軸体制に協力するように説得して言質をとる一方で、アジアのトップ3たる日中韓だけで福岡で集まって、通貨スワップ規模の拡大で合意しするなど、欧米に、俺たち結構仲いいんだぜと、ほのめかせるようにアジアの連帯をアピール。
このサミットで本当に日中韓に深い共通認識や信頼が醸成されたのかは知らないが、少なくともパフォーマンスとしては合格点をさしあげたい。かりにオバマ政権が厳しい緊縮財政と保護貿易政策をとったときの対応まで想定した話し合いが行われたとすれば、定額給付金など内政ではいろいろミソを付けられている麻生さんも、外交はなかなかうまくたちまわっていると見直すかもしれない。
■胡錦涛さんや温家宝さんの麻生さんへの応対(たとえばASEMの会談後、胡錦涛さんが麻生さんの話をメモとりながら一生懸命きいたとか、胡錦涛さん麻生さんを玄関まで送ったなどの逸話)をきくにつけ、日中関係は、安倍、福田政権と比べても数段良くなっていると感じている。もっともこれは中国側の事情、計算も手伝ってのことだろう。
■また日本はODAを増額する方針を決めている。ODA対象は中国でも他のアジアや南米でもいいのだが、ようするに新規顧客開拓に使いたい、ということだろう。建前は貧しい人を救うのだ!という人道的な目的でいいのだが、日本のモノを買ってくれる消費者を開拓するための政府開発援助であると思えば、このご時世で、中国が対象であっても文句を言う人も少ないだろう。
少なくとも中国では、日本がODA増額に方針を転換したというニュースがある種の期待をもって報じられている。
■ただし、ここで問題なのは、中国人は本当に真のお客様になれるのか、と言う点である。
■中国が4兆元規模の内需拡大政策を昨年打ち出したことは当ブログでも取り上げた。ふつうこの規模の政策を打てば間違いなく効果がある、はずである。しかし、一部では中国では期待されたほどの効果はない、と懸念する声がある。
■その一つの背景に、内需拡大効果が出る前に、中国が経済失速し、新規雇用の創出に必要な経済成長8%が維持できず、失業者増による社会不安、カントリーリスクが高まって、さらに海外からの投資が撤退し、さらに経済が落ち込むという負のスパイラルに陥る、という懸念がある。
その結果、8000万から1億人は形成されているといわれていた中国の中産階級が消えてしまうかもしれない。年収6万元以上の中産階級は、不動産や株で儲けているか外資系企業に勤めているケースが多いが、不動産と株はすでにバブルがはじけたし、これにくわえて外資が引き上げはじめると、これは冗談ではなくなる。
■今回、年始年末に北京を訪れて驚いたのは、韓国人居住区の望京で閑古鳥が鳴いていたということである。北京・望京といえば有名な韓国人街で、マンションに入居している人も韓国人なら近くのレストラン経営者も韓国人。
スーパーも韓国物産であふれ、普通に韓国語が飛び交っている地域。しかし、ある当地の不動産業者によると12月だけで3割の韓国人がマンションを退去。(5割という話もきいた)。スーパーやレストランを訪れる韓国人客は8割方減ったとも。
理由は韓国経済悪化で、韓国系進出企業が軒並み撤退したため、在留韓国人の多くも帰国したからだ。で、ある友人からこういわれた。「韓国人は来るのも素早いが、ダメとみたら、債務も放り出して素早く逃げる。日本人は来るときはぐずぐずしているが、いったんくると長くのこってくれる」。
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