2681 CHINA13億のお客様(下) 福島香織

■一国の外資系企業がサーっとひくだけで、街の空気が変わるくらい影響がでる。中国経済、北京の経済がいかに外資に依存しているかがこういうところでも実感できる。
■あとびっくりするくらい観光客が少ない。統計局によれば昨年11月の段階で前年同月比22%減だそうだが、見た目も、五輪で街が観光客向けに整備され、立派なホテルもたくさん建てられたが、外国人観光客でにぎわっている様子はなかった。
たまたまソウルから帰ってきた友人とあったが、ソウルはウォン安に乗じてブランドものを買いあさりにいく日本人観光客でごった返していて、不況なのに観光産業だけは盛況にみえた、と聞いたのと対照的。
五輪直後のこの時期、観光客がよびこめない北京の観光サービス産業の未熟さをいまさらながらに実感した。ついでにいうと、せっかく五輪まえには清浄になっていた空気は、周辺の工場の再開でふたたび汚れていた。
■北京の中心部では実感できなかったが、広東省に出張にいったばかりの知人によれば、工場や警察や役所の前で、生活苦と社会不満を訴える群衆が騒ぎを起こすのをしばしばみかけたという。工場のあいつぐ倒産で、すさんだ表情の失業者が町中に増えているとも。
■失業率について、最近公表された中国社会科学院の統計では都市部の失業者は9・4%にまで上昇(統計局発表の登録失業率は昨年第3四半期で4・0%)。今年の大卒者610万人の4人に1人が就職できないとの試算もある。
農民でありながら都市部に出稼ぎに働いている「農民工」は全国で2・3億人いて、うち1・3億人が生まれ故郷を離れて省外にでているが、彼らが都会で職を失って故郷に帰っても、彼らを養えるだけの農地はもはやない。
今年2月から、冷蔵庫や洗濯機など4品目を一挙に買う農民には価格の13%の補助を出すという家電製品消費促進政策も実施されるそうだが、農村が余剰労働力が食うにも困る状況であれば、この政策もどれほど効果があるのか。
■もうひとつの懸念は、4兆元の内需拡大政策が、汚職促進政策になりかねない、という点だ。この4兆元のうち1・18兆元が中央財政から出ることになっており、残りは主に地方、民間企業がまかなうことになるのだが、地方にとっては、足下の財政赤字と幹部個人の中央進出・出世にむけた評価・政績競争の狭間にあって、汚職がきわめて発生しやすい状況となる。
■たとえば、中央が公共事業やれ、と大号令をかけると、出世意欲まんまんの地方トップは、がんがん公共事業をやろうとする。しかし政績はその公共事業の質ではなく数が競われたりする。もともと地方政府は財政に余裕がないのだから、上から出される事業費はケチられるのに、数は多くこなさなきゃならない、ということで手抜き工事が連発する。
少ない金も、その手抜き工事を隠蔽するための賄賂に使われたりして、ますますひどいシロモノが地方にニョキニョキ建造されたりするわけだ。これまでも地方に限らず多々発生してきた中国では当たり前の風景である。これでは瞬間風速的に工事作業員の雇用が増えるなどの効果はあったとしても、不毛の道路や使えない飛行場が乱立して経済効果が見込めないどころか、事故など大惨事を招く場合もある。
■もうひとつが、社会保障や教育、医療環境の整備の遅れから、中国人の消費者マインドが盛り上がりにくいという懸念。統計をとったわけではないが、中国人の友達に片っ端からインタビューしてみよう。食費や住居費など最低限の生活費を支払ったあと、お金があまったら何に使う?と。
おそらく10人にきけば5人は教育とこたえ3人くらいは貯金と答えるだろう。あるいは将来の子供の教育に使うために貯金、とか。この傾向は農村にいくほど強いはずだ。農民という被差別階級から脱するその唯一ともいえる方法が子供を大学に入れることで、このための農村家庭は食費を削ってでも教育費を捻出しようとする。
だから、多少収入がアップしても、家電をかったり車をかったりはせず、子供の将来のための貯蓄にまわす。一昨年、株価が異常に高騰して上海総合指数で6000代までいったが、あれは上場企業の業績がアップしたからではなく、個人投資家(一般庶民)が株というものをわかっておらず、銀行より利子のいい貯金ぐらいの気持ちで全財産をつぎ込んでいたからだ。
そのけっか株バブルははじめて、昨年一年で65.4%下落し、庶民の金は、インサイダー情報でまんまんと株を売り逃げできた汚職役人や党幹部の子弟に吸い取られてしまった。
■株に逃げていた庶民の金は今、銀行預金に回帰してきて、銀行預金総額は46兆6810億元もあるそうだが、いくら金利をさげても、この銀行の金がうまく企業の設備投資にまわったり、消費者がローンを借りて大きな買い物をするというふうにはなかなかならない。
先行投資をしたりローンを組む心理というのは、明日の給料が、あるいは売り上げがきょうよりも1円でも高くなるという、そういう期待があって初めておきる。明日がきょうより悪くなる、そういうとき人は、子供の将来のため、老後のため、あるいは国外脱出のときのために貯金するのである。日本人も一緒だが。
■日本のバブルの経験に習おうとする中国は、赤字国債発行を拡大して資金調達する考えも示している。中国財政省は「コントロール出来る範囲」というし、中国の国債はAポジティブの格付けだから、それもいいのだろう。
日本もそうだけど、どーせすぐにかえせない借金なら、少々借金額がふえても、きょうを豊かにくらせればいいのである、と考えるのが人情。そういって、返せないとしりつつ借金して消費する経済が今、米国で崩壊しつつあるのだけれど。
■結局、CHINA13億は世界経済を救う、お客様になりうるのか。それは来年、あるいは今後数年の中国経済・社会の流れをみないことにはなんともわからない。しかし、中国が米国にかわるお客様になってくれないことには、世界不況からの脱出の絵がかきにくい。
その一方で、もし期待どおり中国を世界最大の消費者に育てあげられたら、そして、今の政治体制、つまり軍事独裁政権の性質を維持したままでのままであれば、それもちょっと、そら恐ろしい。
■なぜなら、お客様は神様、だから。金は使うヤツが偉いのだ。消費者が一番多い国の通過が基軸通貨となり、経済をリードする。世界中の商売人はお客様のご機嫌をうかがい、つねにお客様のご要望にこたえなければならないのが宿命。中国人が世界のお客様になった暁は、米国以上に横暴で旺盛なモンスター・カスタマーとして君臨する、かもというのは想像がすぎるというものだろうか。
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