2689 この国の行く末、考えるべき「7つのS」 花岡信昭

ことし最初のコラムである。大荒れ必至の通常国会が5日、開幕した。このことを中心に書くべきかどうか迷ったが、ここはもっと大きな視点で見たい。大上段に振りかぶるのもなんだが、こういう書き方はおそらく年頭ぐらいでしかできない。そう考えて、このコラムのタイトルそのものともなるのだが、この国はいったいどういう「国のかたち」を目指すべきなのか、日ごろ考えていることをまとめてみたい。
あちこちの大学、大学院で講義を担当させてもらってきたが、新年度から専任の場ができることもあって、いくつかは失礼させていただいた。そこで「最終講義」というのも大げさだが、日本が直面している「7つのS」を考えてみよう、といった話をした。
というのは、あれこれのテーマを考えていると、すべて頭文字が「S」になるというおもしろいことに気づいたのだ。政党、政策決定、小選挙区制、少子高齢化、消費税、州制、集団的自衛権の7項目である。
それぞれの概要を触れてみたい。おそらくは、今後、このコラムの中で、相当に突っ込んだ論議を提起する場面もあるだろうと思われるが、まずは「序論」として。
(1)政党
今の政治の混迷は政党が本来持つべき機能を発揮していないことに由来する。議会制民主主義の先進国である米英などと比べ、日本の政党はあまりに脆弱だ。政党政治を充実させていくためにも、政党が成熟しないといけない。
一つは候補者の養成システムだ。最近でこそ「公募」が行われるようになったが、「地盤、看板、鞄(カネ)」の「3バン政治」の体質が消えない。だから二世候補ばかりとなる。政党が常に候補者の発掘、教育を行うシステムを持ち、候補者リストを作成しておく必要がある。地縁とまったく関係のない候補者をその選挙区に送り込むことができてはじめて「政党本位の選挙」が実現する。
さらに、政策形成システムが必要だ。シンクタンクをつくったりしているが、なんとも未成熟なままである。かくして、霞が関が政権党のシンクタンクとなり、「官僚主導」が幅を利かすことになる。
政党は地域に根をおろさなくてはならない。どの政党にしても「党員」であることを公言しにくいような雰囲気を払拭させないと、政党は育たない。政党支部が候補者の「後援会組織」と同一であるような実態から脱却する必要がある。
☆政策決定、小選挙区制
(2)政策決定
これまで55年体制以後、ほとんどが自民党を軸とする政権だった。そのため、「党高政低」と呼ばれ、党と内閣の二元的な政策決定システムがまかり通ってきた。これを「政治主導」の一元的な政策決定システムに変えていく必要がある。政治主導というのは、内閣主導の意味である。
そのためには、英国のように党幹部が大量に内閣に入り、党との二重決定システムを変えることが求められる。民主党は政権を取ったら、議員200人を内閣に入れる方針というが、その方向は正しい。これによって、議院内閣制が本物となる。
(3)小選挙区制
このところ、中選挙区制への復活願望が強まっている。自民党の場合、派閥がかつてのパワーを失い、「大物議員が少なくなった」などともいわれる。そういう実態を小選挙区制のためだとする議論が出回っている。
たしかに、中選挙区制の時代には、公認を得られない若手の有望な候補が挑戦できる余地があった。これが当選すると事後公認して、落選した高齢議員が引退に追い込まれ、新陳代謝が図られる。
そういう時代への郷愁は長い間政治記者をやってきた経験から分からないでもないが、「中選挙区制に風穴を空ける」が政治改革の最大の眼目であった。中選挙区制だと、同じ党の候補同士が争うことになり、地元への利益誘導に力を持つ側が勝つ。定数5というところもあったから5大派閥が君臨できた。各派が代表選手を出せるのである。そこに膨大なカネが費消された。
「政党本位、政策本位」の政治システムを貫徹するために、小選挙区制を維持しなくてはならない。これによって政権交代可能な2大政党時代が現出しやすくなる。現在の比例代表をやめて300小選挙区だけにする。民主党も政権奪取にはこのほうが早道であるはずだ。
☆少子高齢化、消費税、州制
(4)少子高齢化
現在の経済財政危機の背景に、これがある。高齢化の進行で、医療、年金、介護を中心とした社会保障費の増大は避けて通れない。
「産めよ増やせよ」の再現は望むべくもない。女性が安心して子どもを産める国にという掛け声は分かるが、少子化の進行を止めるのは無理だろう。これによって、人口が一気に減っていく。仮に今の半分の人口になった場合、「小さな国」として生きていこうとするのか。それとも、米国のような多民族国家への転換を目指すのか。重大な国家的決断が迫られている。
(5)消費税
麻生首相は「3年後の消費税増税」を打ち出した。民主党も元来は消費税を軸とした税制改革を主張していた。少子高齢化への対応の軸となるのが消費税だ。EU各国などは20%のところもある。
ここは直間比率の抜本是正を避けては通れない。法人税、所得税を大幅に引き下げる。企業には活力が生まれ、海外に逃げ出す「空洞化」が回避できる。サラリーマンは可処分所得の増大でこれまた活力がわく。
あらゆる消費活動には20%の消費税がかかる、その一方で直接税は極端に下がる、相続税などはなくなる、といった時代の社会構造、国民意識を考えるべきだ。消費税ほど簡易で公平で景気動向に左右されにくい税制はない。
(6)州制
「道州制」という言葉が使われているが、それだと「S」にならない。というのは冗談で、むしろ州制とするほうが正しい。道州制というのは、これが導入されても今の地域のままである北海道があるからだが、それなら、東京都も現状維持というケースもあり得る。
北海道は道州制の先駆的な試みをもっと仕掛けるべきであった。それを果たしてこなかった以上、道州制という言い方で特別の扱いをされるだけの条件を備えているとは思えない。だから州制と呼びたい。
「地方の時代」を支える基本的思想がこれだ。全国を10程度の州にする。「廃藩置県」ならぬ「廃県置州」である。今の県の単位では国にすがるしかない。州になってはじめて、国と同等の立場に立つことが可能になる。現状では、国家公務員は地方公務員の上に立っている印象を与えているが、将来は、国家公務員と州公務員が同格になるはずだ。
州制の導入は、波及効果が大きい。衆院の小選挙区は県が単位だったため、1票の格差が5-6倍という民主主義国家にはあり得ない仕組みが生まれてしまった。州になれば、小選挙区の線引きもかなり楽になるはずだ。
参院改革にもつながる。参院を州の代表院にしてしまえばいい。米上院型だ。1州から5人なら全体で50議席、10人でも100議席程度ですむ。州の代表なら1票の格差があってもかまわないことになる。これには憲法改正が必要だが、9条問題よりもはるかに容易な「改憲への入口」となるはずだ。
☆そして集団的自衛権
(7)集団的自衛権
「7つのS」の最後は、やはりこれだ。日本の防衛安保体制の不備は、すべてここから生まれている。
世界で集団的自衛権を認めていない国はないといっていい。国連憲章も認めている。だいたいが自衛権を個別的、集団的の二つに分類する発想そのものがおかしい。
集団的自衛権の行使容認は、本格的には憲法改正が必要だが、現憲法のままでも事態の形態によっては認められるという識者の報告書も出ている。これによって、自衛隊の国際貢献も容易になる。日本は特殊な国家のままであっていいのかどうか。「普通の国」になるための大前提がこのテーマだ。
以上、年初にあたって「7つのS」の概括的説明を試みた。議論があるのは承知している。政局動向はリアリズムを踏まえてフォローしていくしかないが、混迷必至の政治の実態からときにはやや距離をおいて、この国のありようそのものを考えてみたい。というよりも、政治攻防の基本には、やはり国家観論争があってほしいと望みたい。
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