2708 ハラを召しませ乱乱乱 平井修一

ブルームバーグ・ニュースのコラムニスト、マイケル・ルイス氏がきつーい1発をかましている(1月8日)。日本のマスコミ記者・論者はスポンサーや読者に気兼ねして媚びたり軟弱に流れるが、米国には「孤立を恐れず」の言論が健在のように思う。ほんと、面白いなあ。
ルイス氏の今回のタイトルは「金融危機の正しい責任の取り方、それは自殺?」。日本ではこのタイトルは整理部で確実に変更されるだろう。「自殺を教唆した」と読者やスポンサーから非難されるからだ。
誰もが心の奥底で(さんざオイシイ思いをしてきた)リーマン、AIG、ビッグスリーの経営陣やFRB幹部がハラキリすればいい、それは当然だと思っているが、誰も口に出せないで「ビジネスジェットは許せない、年俸は1ドルにしろ」くらいしか言えない。「ハラキリせよ」と、このタイトルを掲載しただけでもブルームバーグの根性がうかがえる。
ビジネスはゲームじゃねえぞ、虎の子をすべて失った客もいるんだぜ、命懸けで経営しろ、責任をとれや、ということだ。
<金融界の人間が逆境に直面したとき、他の世界の人間よりも自殺をしやすいかどうかは分からないが、自殺によって名を上げることができるのは確かだ。この点で、金融界の人間は裏切られた恋人や世間に理解されない芸術家のようだ・・・
(資産運用会社の)ドラビユシェ氏は、詐欺の疑いで先日逮捕されたバーナード・マドフ容疑者の(ネズミ講)ファンドに自身と顧客の資金を投じ、大金を失った。同氏は昨年12月22日、まだ正確な損失額も確定できないうちに自ら命を絶った・・・
ニューヨーク・タイムズ(NYT)は、同氏の行動は不名誉な職業でまれにしか見られない高潔な行動だったとのドラビユシェ氏の兄の言葉を報じた。兄はNYT紙に、「弟は責任と罪の意識を感じた」のだと説明。「今日の金融界には無責任が横行している。誰も責めを負いたがらない」と指摘した。
兄の気持は理解できる。意外だったのはNYT紙の記者らが心からこれに同調したことだ。NYTは記事で「ドラビユシェ氏の態度は稀有(けう)なものに見える」とし、「これまでのところ、マドフ事件の立役者たちは頑固に口をつぐんで、謝罪も責任を認める発言も避けている」と書いている。
ドラビユシェ氏の真意を知るすべはない・・・しかし今は、「責任を取るため」の自殺だったと仮定してみよう。
しかし現実問題として、同氏が自殺した前と後で、金融界で誰かが負わなければならない責任の量が変化したわけではない。同氏の死は問題を解決もしなければ資産を回復することも、既になされた害を消すこともない。
ドラビユシェ氏の投資行動によって乱された人々の人生に平穏が戻ったわけではない。これらの人々は今も同様に、失われた財産について嘆いているだろうし・・・同氏の自殺で顧客らの心が晴れたかと言えば、そんなことはないと思う。
現在、金融業界では責任の取り方が大問題となっている・・・金融家の多くは決して、責任を取りたがらないだろう。しかし、仮に責任を取るとしたら、具体的に何をすればよいのだろう・・・
ウォール街の幹部たちは2008年のボーナスを受け取るのは総じて得策ではないと意見が一致したようだ。しかし・・・ウォール街の劇的な誤りが経済にもたらした打撃が消えるわけでもない。
スイスの銀行UBSはもう少し良いことを思いついた。既に受け取った報酬の一部を返還することだ・・・
しかし、より全体的な贖罪(しょくざい)のためには、これらは小さなことにすぎない・・・失われたカネの大半は、ただ消えてしまったのだ
・・・
ウォール街の「普通の人」はどうしたらいいのだろうか。車でワシントンに行ってクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)悪者論をぶつのか、金融リスクとリターンの関係についての無料講習で講師を務めるのか。
明確な答えはない。金融家が意味のある有用な形で責任を取るのは難しい・・・何か良い考えはあるだろうか>
ウォール街が悪事を引き起こしたのだから腹を切るなり報酬を返上するなり、何らかの落とし前をつけろ、それが救済へのはじめの一歩だとルイス氏はメインストリートの人々の思いを代弁している。そういえば美空ひばりが歌っていたっけ。ハラを召しませ乱乱乱。
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