2733 それで政局はどう展開するのか 花岡信昭

1月5日に召集された通常国会は、予想されたように「大荒れ」で推移している。だが、その推移の中身もまた「予想された範囲内」である。この先、衆院解散時期をめぐる攻防戦が激しくなるのは必至だが、「麻生vs小沢」のいずれに優位な状況といえるのか、その解析は難しい。
メディアの世論調査では麻生内閣の支持率は軒並み20%前後に落ち込み、「年が明ければ下げ止まりも」と期待していた自公与党の期待を裏切った。政権が危険ラインにあるのは確かだが、自民党内には外から見るのとは違い、意外なほど切迫感がない。
自民党幹部の中には「いま選挙となっても、自民惨敗とはならない」と断言する向きもあり、実は民主党幹部にも「本当に民主圧勝となるのだろうか」とメディアが伝える選挙予測を疑問視する声がある。
政治の流れを展望し、選挙結果を予測するのは、それほど難しいということなのだが、政局は転がりだすといったいどこへ向かうのか、当事者たちにも判断不能となる。「一寸先はヤミ」とはよくいったものだ。
そうしたことを百も承知のうえで今後を見通すと、麻生政権があすにも倒れるかといった調子の報道を展開しているメディアもあるが、これはちょっと違うように思える。このまま支持率が一ケタにでも落ち込み、麻生首相がついに意欲を喪失して政権を投げ出すという事態にでもなれば別だが、政権継続の意思を持ち続けていれば、この政権は意外にしぶとく生き残る。
というのは、自民党内に麻生首相にとって代わる後継候補がただちには見つからないということが大きい。最短距離にいるのは与謝野馨氏だろうが、「選挙のカオとしては地味すぎるし、自分の選挙もあぶない」といわれるほどだ。では、石原伸晃氏や小池百合子氏らといった顔触れに一気に飛ぶのかというと、これもまた現実味には乏しい。
*渡辺氏、松浪氏の造反は選挙区事情が大きい
内閣支持率の急落が進行しているのと並行して、興味深い現象があらわれた。自民党内の「反麻生勢力」の動きが止まってしまったのだ。中川秀直氏も、民主党の菅直人氏、国民新党の亀井静香氏とともにYKKKといわれてきた山崎拓、加藤紘一両氏も「選挙前の旗揚げ」にはきわめて慎重だ。
13日の第二次補正予算案と関連法案の衆院採決では、渡辺喜美氏が造反して離党、松浪健太氏も本会議採決時に退席して内閣府政務官を辞任したものの離党は否定した。この造反の動きに呼応する議員が相次ぐという事態にでもなっていれば、政権の危機に直結するのだが、そうした展開にはなっていない。
渡辺、松浪両氏にはそれぞれの思いがあるのだろうが、選挙区事情が大きいと見られている。渡辺氏(栃木3区)は父親の渡辺美智雄氏以来のがっちりとした選挙基盤を持つが、民主党は候補を決めていない。自民離党で民主票をも吸収できることになる。松浪氏(大阪10区)の相手は社民党の人気議員、辻元清美氏(民主推薦)だ。ここで麻生執行部と距離を置けば自民離れ票の離反を食い止めることができると踏んだのではないか。
政治記者時代、先輩から「議員が不可解な動きをしたら、選挙区に立ち戻って考えてみろ」と仕込まれたものだ。確かにそういう見方をすれば、両氏の行動もうなずける。
アメリカのメディアは「民主党びいき」がほとんどだ。日本のメディアは政党支持を明確にはしないものの、「政権党にきつく当たる」という伝統を持つ。メディアの権力監視機能からすれば、それもわかるのだが、100年に1度といわれる経済危機に直面して、「麻生無策報道」ラッシュはややバランスを欠いているようにも思える。
高級ホテルのバー通い、漢字の読み間違い、失言・放言といった次元の首相攻撃は、テレビのワイドショーなどの得意とするところだが、ちょっと方向を間違えてはいないか。この経済危機をどう乗り切るか、そのために政治に何が求められるか、という真摯な取り組みがほしい。
*話し合い解散に言及した小沢氏の焦り
さて、民主党にとっては、確かに結党以来初めて到来した政権奪取のチャンスである。とかく「風頼み、敵失頼り」といわれてきた体質を転換させ、政権担当の能力を示していかなくてはならない。何よりも、早期解散に追い込めるだけの政治的力量を発揮できるのかどうかが試される重要な局面だ。
民主党は一昨年の大連立騒ぎが収束して以来、早期解散を声高に叫んではきたものの、1年以上たっても解散に追い込めないままだ。小沢一郎代表はここへきて、「話し合い解散に応じる用意がある」といった趣旨の発言をしてしまった。今国会での解散を逃すと、いよいよ小沢氏の神通力に赤信号が灯りかねないからだ。それを小沢氏自身が一番よく承知している。
13日の第二次補正予算案・関連法案の衆院通過は、重要な意味を持つ。麻生首相が「衆院強行採決、参院60日経過後の衆院再可決」を国会運営の基軸とすることを示したことにほかならない。
予算案は衆院通過後30日で自然成立する。関連法案は衆院通過後60日たっても参院で結論が出ない場合、衆院で3分の2の賛成によって再可決が可能になる。渡辺氏の離党によって、自公与党は衆院の3分の2ラインを16議席上回ることになった。ということは、16人以上の造反が出ない限り、再可決が可能になるということだ。つまり、16人以上の離党、新党結成といった事態を回避できれば、麻生首相の国会運営は成功する可能性が強まったのである。
第二次補正予算は2月12日に自然成立し、3月14日以降、関連法案の衆院再可決が可能になる。来年度予算案と関連法案は1月19日に国会提出となるが、ぎりぎりで2月末から3月初めまでに衆院を通過させることができれば、予算本体は4月初めまでには成立する。事実上の年度内成立が可能になる。関連法案は5月連休明けに衆院再可決が可能になる。
今年は昨年のガソリン税のような年度末で期限切れとなるものが少ない。関税関係にそういう「日切れ法案」があるものの、ガソリン税ほどの混乱にはならない見込みだ。
要は衆院での強行可決方針を貫いていけば、参院段階で野党がいかに抵抗し国会混乱を招いたとしても、5月連休明けまでの国会日程が確定したといっていい。これが1月13日の衆院強行採決の意味合いである。
こうした国会運営の是非論はこのさい脇に置こう。小沢氏はそうした展開を恐れたのである。国会審議の長期ボイコットは世論の批判を浴びかねないし、参院段階でいかに抵抗したところで「60日規定」の適用を前提とされてしまうと、手も足も出ないということになる。
したがって、小沢氏が提起した「話し合い解散」論は、現段階では、麻生首相にとって容易に蹴飛ばせるものとなる。3月中旬あたりまできて、来年度予算の衆院通過が困難となった場合、やっと浮上する案である。その場合、予算案と関連法案を衆院通過、参院否決、衆院再可決という段取りで年度内成立させ、「4月初旬解散、26日総選挙」という日程が有力となる。4月26日は大安だ。
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