2735 最長老・中山太郎の「訴え」 岩見隆夫

昨年暮れ、「来年こそは自民党への信望を取り戻さねばなりません。辛抱、深謀、心棒をしっかりし、総選挙を勝ち抜かねばなりません」と訴えたのは伊吹文明元幹事長である(「いぶきの国会レポート」195号)。
四つのシンボウ、とりわけ最後の<心棒>が最近はどこかに行ってしまった。年初から最大の争点のように騒がれている定額給付金問題にしても、政策論としての是非、麻生太郎首相の迷走など、論議になるのはわかる。
だが、この議論はどこかシラケを誘う。果たして国の重大テーマだろうか。政治の心棒に据えるほどのことだろうか。腰を落とし、精力的に処理しなければならない緊急かつ重要な政治課題がいくつも忘れ去られている。
そんなことを考えている時、中山太郎元外相の新著を読んだ。題名は「未来の日本を創るのは君だ!15歳からの憲法改正論」(08年11月刊・PHP研究所)。
中山は84歳、ただ一人大正生まれの最高齢議員だ。参院3回、衆院7回当選、医博。半世紀前、池田政権の厚相で入閣、女性閣僚第1号になった中山マサの長男である。
憲法改正の大御所はよく知られている。00年、衆院に憲法調査会が設置されてから会長を務め、05年、最終報告書を議長に提出、さらに衆院憲法調査特別委員長として07年、憲法改正の国民投票法を成立させた。
遅ればせながら改正の段取りは整ったが、もうひとつ機運が熟してこない。各政党、政治家の間に熱気が乏しい。とりわけ、最高リーダーの旗振りが肝心だ。
安倍晋三元首相は改憲に熱意をみせたが挫折し、福田康夫前首相は消極的、麻生にも旗を振る気配がない。国の心棒にかかわる改憲問題を避けて通る風潮はどこからきているのか。
著書の副題を「15歳から……」としたのは、もはや若い世代に託すしかないという長老の苦衷がにじんでいる。
中山は同書のなかで、戦後長く<新憲法>と呼ばれてきたことに疑問を投げた。公布から62年、明治憲法の寿命を5年も上回っている。世界193カ国のなかで、現憲法は古いほうから14番目だ。
<憲法は絶えず変えていかなければならない。解釈改憲でごまかしてきたのは、国民の権利を剥奪(はくだつ)するものだ>と中山は訴えている。こんな記述もある。
<国民が納めた税金を官僚たちが勝手気ままに使っている。怒っているのは国民だけではない。心ある政治家たちも、この官僚システムには辟易(へきえき)している。早く道州制を実現させて、中央官僚の力を分散させなくてはならない。そのための憲法改正であることを理解してください>
とかく9条論議に傾きがちだが、国の運営システムにもかかわるのだ。
臓器移植法(97年)、少子化社会対策基本法(03年)の議員立法にも、中山は中心的役割を果たした。幅が広い。その割には目立たない。
だが、昨年暮れ、政局話のなかで、中山の名前が出たことがあった。民主党の小沢一郎代表が、麻生政権の行き詰まりを想定して超党派の選挙管理内閣を提案した時だ。民主、社民両党幹部の会合で、だれがシャッポに、という話題になり、小沢が、
「若手はだめだ。意外に長老がいいかもしれない。たとえば、中山太郎……」ともらしたという。太郎から太郎へ、か。
それはともかく、この難局、中山ら与野党長老には、もうひと働きもふた働きもしてもらわなければならない場面だろう。経験がものをいう。(敬称略=岩見隆夫コラム)
杜父魚ブログの全記事・索引リスト

コメント

タイトルとURLをコピーしました