2760 ミサイル防衛を本格化させるインド 宮崎正弘

インドが迎撃ミサイルを基軸にミサイル防衛を本格化させようとしている。これによって南アジアの軍事情勢に地殻変動が起きる可能性が高まった。
インドの防衛力増強は中国の宇宙兵器の拡充に対抗することから始まった。
第一は米国の出方に微妙な変化が観察されることだ。アフガン攻撃直後から米国の対インド政策は顕著に変更され、インドの核兵器保有を黙認したばかりか核技術提供に乗り出し、米印関係は蜜月時代。
ソマリア海域の海賊退治に駆逐艦貳隻をふくむ六隻の海軍を派遣した中国の、鄭和以来の海軍力の突出に神経を尖らせる米国は印度を筆頭にインドネシア、オーストラリアとの合同海軍演習なども繰り返している。
となると、表向き「米中は戦略的パートナー」などと言いながら、米国ははたして中国を軍事的に封じ込めようとしているのか、否か。
日本、韓国を巻き込むMD構想は、それほどの進展は見られないばかりか、予算的裏付けがなく、投下する予算に見合う効果が本当に達成できるかどうか疑問である。
だが、MD構想に「米国は台湾とインドを参入させる腹づもり」と北京筋は睨む。
第二は中国の警戒もしくは猜疑心の広がりだ。
中国はもとよりパキスタンとの軍事同盟は半世紀以上を閲し、イスラマバードに核技術供与を行った。
中パ合弁の武器工場がパキスタン国内で稼働し、パキスタン歴代大統領がまっさきに駆けつけるのは北京である。
とはいうものの中国とインドの通商拡大は劇的に増加しており、07年双方の貿易は380億ドルへと飛躍し、2010年には600億ドルに達するという楽天的予測がある。 
第三はイスラエルの魑魅魍魎的な暗躍と武器技術輸出だ。
『アジア・タイムズ』紙(1月20日)に拠れば、インドはイスラエルとフランスの技術供与により、本格的な迎撃ミサイル(準ABM型)の実験を行った模様という。
このミサイルがイスラエルの技術を加味した「プルスビ」と呼ばれる迎撃ミサイル。米国のパトリオットの原型のようなものという。
つまり大陸間弾道弾を迎撃できるミサイルであり、その技術は高度のレーダーなどが必要。試射は一連の実験措置で技術の確認をしている、と専門家は観測している。
「AD1」,「AD2」と呼ばれるミサイルは、二年以内に本格的実験が行われるが、宇宙航空技術のインフラならび整合性が求められる。
インドが宇宙の迎撃システムに取り組むのは2007年に中国が打ち上げたASATの影響である。イスラエルが供与したのは米国と開発したアロー・ミサイル・システムとも言われる。
しかし専門家のなかには、「いやいや米国を激怒させる高度技術をイスラエルが売るわけがなく、『グリーン・パイン』と言われるレーダーだろう」。
空対空ミサイルを含む新型プロジェクトのためにインドはイスラエルへ25億ドルを支払う合意が成立していると前掲アジア・タイムズが報じている。
▲インドの永遠のライバル=パキスタンをめぐる米中の角逐
第四にパキスタンが米軍に空軍基地を貸与しながらも、他方では中国の代理兵力としての役割が増大している事実だ。
地政学的にはパキスタンそのものを、インドからのICBM攻撃が行われる場合には緩衝地帯としても使える。
パキスタンに置かれた宇宙観測基地などから北京へわたる宇宙情報は逆に中国がインドをミサイル攻撃する際に、必要欠くべからざるものであり、多機能の宇宙衛星を補足するのがパキスタンという関係になる。宇宙における軍事能力の増加は、一方でインドの核戦力の能力を自動的に相対化してしまう。
 
第五はインドを囲む情勢の近く変動的激変。
まずパキスタンが核保有してからというもの、イスラム過激派はパキスタンからの核技術入手に躍起である。
インドは冷戦終了後、インド海軍が米国海軍と合同演習を繰り返し、ASEAN諸国とばかりか、日本とも国防交流を開始した。
上記をふまえて米国はインドのパトリオット3システムの導入を迫っているが、インドは自主開発を希望しており、それが先の実験に繋がった。
嘗て対印武器供与最大のロシアがだまってこれらの動きを見逃すわけはない。ロシアはニュー・デリーにABMシステムの売り込みをしている。
かくて武器を巡るスパイ、商人、政府役員、情報員が南アジアを駆けめぐる。嘗てこの地を駆けめぐったのは日本人の「商社マン」「写真家」「冒険家」「宗教者」に化けた情報将校や民間のスパイだったのですが・・・。
  
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