北朝鮮の対韓国窓口である祖国平和統一委員会は30日、韓国に対して「南北間の政治・軍事的対決状態の解消に関連するすべての合意事項を無効にする」と声明した。17日に朝鮮人民軍総参謀部の報道官声明で、韓国と「全面対決態勢に入る」と表明していたから唐突な感じではない。
しかし南北基本合意書で定められた黄海の南北境界水域に関する条項を「破棄する」としているので、この海域での軍事衝突の可能性がある。発足から1年を経過した韓国の李明博政権に対し、金大中、盧武鉉政権の対北融和政策に戻るようボールを投げてきたといえよう。
韓国政府は北朝鮮の出方を「単なる揺さぶり」と受け止め、事態を静観する姿勢を見せる一方で、韓国軍には軍事境界付近での警戒を強化するよう命じた。北朝鮮がお得意の”瀬戸際政策”に出てきたというのが韓国軍事筋の見方である。
オバマ政権はまだ動きがない。偵察衛星で朝鮮人民軍の動きを監視しているが、38度線を越えて韓国内に侵攻する気配はないのではないか。いずれ国務省や国防総省の見解が出てくるだろう。
見方によっては目的は李明博政権に対する威嚇ではなくて、発足間もないオバマ政権の関心をひく示威行動とみる向きもある。
オバマ政権にとっては朝鮮半島で不測の事態が発生しても、軍事的な対応をする余力がないから、外交交渉で事態の沈静化をはかるしか手がない。
その現実はアメリカの外交問題評議会が28日に発表した「北朝鮮の急変に対する備え(Preparing for Sudden Change in North Korea)」の報告書で、金正日総書記の北朝鮮が崩壊後に抵抗運動が展開された場合、北朝鮮の治安維持のためイラク駐留米軍の三倍に相当する最大46万人の韓国軍・米軍が必要になる・・・とした点でも明らかである。
この報告書にはクリントン政権時代に国務省の北朝鮮担当官だったジョエル・ウィット先任研究員が参画している。
フランスのAFPは「南北間では数か月前から緊張が高まっており、1月初めには、北朝鮮が韓国政府に対し”全面的な対決姿勢”を示したため、韓国軍が軍事境界付近での警戒を強化するよう命じている。今回発表された声明には、政治・軍事的対立を解消するために結ばれたすべての合意事項は無効化されるとあり、この中には、1999年と2002年に武力衝突が起きた黄海(Yellow Sea)上の北方限界線(Northern Limit Line、NLL)も含まれている」と報じた。
英ロイターは「北朝鮮はこのところ、韓国の李明博大統領や政府に対して攻撃的な発言をしている。アナリストの間では、そうした動きは米オバマ政権の注意を引くための策との見方がある」と分析している。
共同は「韓国の軍事消息筋の間では、北朝鮮が冬季訓練に合わせ、南北境界水域をめぐり対立が続いている黄海に向け、短距離ミサイルの発射演習を断続的に実施する可能性も指摘されている。同水域では、1999年と2002年に南北艦艇間で銃撃戦が発生、双方に死傷者が出ている。
北朝鮮は昨年12月、軍事境界線を利用する南北間の陸路往来に厳しい制限を加える措置を講じて以降、韓国の李明博政権への強硬策を相次いで打ち出してきた」との見方をしている。
韓国のメデイアは聯合ニュースが「朝鮮半島の緊張を高めながら韓国政府の対北朝鮮政策の転換を圧迫」と次の様に分析している。
<【ソウル30日聯合ニュース】北朝鮮の祖国平和統一委員会は30日、南北間の「政治軍事的対決状態の解消に関するすべての合意事項」の無効化を一方的に宣言し、南北基本合意書と付属合意書に記されている「西海(黄海)海上軍事境界線(NLL)に関する条項」を廃棄すると明らかにした。朝鮮中央通信が報じた。
祖国平和統一委員会は、声明を通じ「今日の朝鮮半島情勢は、南朝鮮(韓国)保守当局の無分別な反共和国対決策動により日ごとに緊張している」と主張し、こうした措置を発表した。
同委員会は、北朝鮮で対韓国政策を総括している。今回の声明は、17日に韓国に対する全面対決態勢を宣言した朝鮮人民軍総参謀部報道官声明に続くもので、やはり朝鮮半島の緊張を高めながら韓国政府の対北朝鮮政策の転換を圧迫し、緊張責任を韓国側に転嫁しようという意図だと分析される。(聯合)>
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