2830 武器制限のソマリア派遣?(2) 桜井よしこ

日本を自力で守れない
櫻井 福田総理はその報告を全く無視した。その報告書は有効性を失ったのでしょうか。
前原 いえ、まだ有効です。
櫻井 麻生総理が引き継ぐことはできるのですか。
前原 できますが、何分、求心力のない総理ですから、現実的には難しいのではないでしょうか。また、公明党との連立がネックになるかもしれません。しかし、もし、この4類型で憲法解釈を変えれば、ソマリア沖での海自の活動について、問題は相当にクリアされるはずです。そもそも、集団的自衛権は国連憲章に認められていることですからね。全ての加盟国は個別的自衛権と集団的自衛権の両方を持つと認められています。
私は将来、日本は安全保障基本法を持つべきだと思いますが、そこに集団的自衛権の範囲をしっかり書けばよいと思っています。有事一歩手前の段階でも、同盟国アメリカや友好国のために協力できるという形を整えることは、日本の安全保障からすると当然のことでしょう。
櫻井 同感です。けれど、ソマリアへの自衛隊派遣について、基本法を作ろうと自民党が提案しても、民主党は話し合いに応じないそうです。
前原 それは、おかしなことです……。
櫻井 ですから、安全保障に関しての民主党の政策は信頼されず、政権政党としての力を疑われるのです。中国の軍事費はこの20年間で19倍になりました。ロシアも凄まじい軍事力強化です。このような状況下で、日本が台湾のようになる危険性はゼロではありません。台湾の実態として、アメリカと中国の共同管理という色彩が濃くなりつつあります。
例えば、アメリカは中国の顔色を見ながら、台湾の独立志向を牽制したり、新しい武器を売るかどうかを決め、台湾は自らの意思で自国の運命を決めることが次第に難しくなりつつあります。日本が同じ立場に追い込まれないためには、自力で自国を守り得る軍事力を日本も持つ時期が来たと思います。
前原 年間5兆円の予算を使いながら、日本は自国を自力では守れない仕組みになっています。昔の仮想敵国はソ連でした。当時は、大規模着上陸侵攻という有事が想定され、それに合わせて自衛隊が整備されてきました。
しかし、今、想定されている脅威は3つあります。1つ目が北朝鮮からのミサイル、2つ目があらゆるタイプのテロ、3つ目が島嶼侵攻を含めた主権の侵害です。即ち中国です。
櫻井 想定される3つの脅威に、現状では日本だけでは対応できませんね。
前原 ええ、日本のミサイル防衛システムは、アメリカの高高度の静止衛星からの情報がなければ機能しません。またテロに対して、もっとも重要なインテリジェンス能力ですが、衛星情報や諜報活動の能力を含め、日本は決定的に欠いています。
この点もアメリカ頼りで、例えば、北朝鮮の工作船を2度察知しましたけれど、全てアメリカの情報によるものでした。最後の島嶼侵攻については、制空権、制海権の問題に行きつきます。このまま中国の軍備増強が続けば、尖閣諸島を含めた東シナ海は、たとえアメリカと協力したとしても、日本の実効支配は危うくなるでしょう。
櫻井 たとえ、アメリカの協力があったとしても、日本の制海権、制空権の維持が難しいとの指摘は非常に重要です。昨年12月8日、中国の海洋調査船が尖閣諸島から3.2キロ沖合いの日本の領海に侵入し、9時間半も居座りました。
日本側の抗議に、中国側は「釣魚島は中国固有の領土」と開き直りました。さらに、海監総隊副隊長は、「領有権の争いがある海域では、実効支配が重要な意味を持つ。今後、この海域の管轄を強化する」と、述べました。軍か民間か、如何なる形か、中国が尖閣に上陸する日は遠くないと感じています。
2050年の世界地図
前原 外務省幹部によると新華社系の新聞には、「また行う」と報じられていたそうです。阻止するために海上保安庁による警戒態勢は強化されていますが、海自や米軍との連携を含めた中長期的な計画を考えていかなければならないと思います。
留意すべき点は、中国が空母の建造と宇宙の利用を急速に進めていることです。近い将来、30~40基の衛星を持ち、空母と連携させるでしょう。東シナ海のみならず、太平洋まで中国海軍の実効支配が強まってくると思います。
櫻井 今すぐできるのは、海保の船を尖閣の周辺に集中させることです。予算措置も立法措置も不要で、緊急手当てができます。日米安保条約や海自の存在も強く示さなければならず、そのために5兆円を下回った防衛予算を増額する必要があります。今でも、日本と中国の軍事力は1対3だと言われています。
このままでは10年後、中国の軍事力は約10倍になり、日本との差は30倍に開きます。そうなれば、日本は中国の顔色を窺わなくてはならず、もはや、彼らに物を言えなくなるでしょう。
前原 防衛基盤をアメリカにおんぶに抱っこでは、中国の力がより強くなったとき、アメリカから武器の輸出をしてもらえなくなるかもしれません。日本は戦闘機や情報衛星、護衛艦をできる限り、自らの力で作らなければなりません。自国で全てやろうとしたら大変ですから、他国との共同開発ができるように、武器輸出3原則を見直すことです。それは必ず日本の防衛基盤の強化に資するはずです。
櫻井 防衛基盤の強化に異論はありません。ただ、世界6番目の海洋大国である日本が海上自衛隊の力を削り続けるのは将来の国民への背信行為になりかねない。外交と軍事が一体であることを忘れ去ったかのような日本は、中国は無論、同盟国のアメリカからさえも受け入れてはもらえないでしょう。ソマリア沖で中国に守ってもらう日本でよいのかと、問いたいですね。
前原 一昨年、ゴールドマン・サックスが2050年の経済大国の予想を発表しました。1位中国、2位アメリカ、3位インドで、日本はロシア、メキシコ、ブラジルといった国と肩を並べています。そう考えると、中国が影響力を持つことは不可避でしょう。
台頭する国に対して周辺国が警戒感を持つのは当然ですが、現実を考えると、中国が傲慢にならないよう、身の丈にあった国際貢献もしてもらえるように、中国を導いていくことが大事だと思います。
そしてどうしたら、中国ときちんと付き合えるか。対中外交で最も大事なのは、原理原則を曲げないことです。その上で協力できるところは協力し合う。両面を合わせて上手くやっていかねばならないのです。
櫻井 そのためにも日本が真の自立を手に入れること、決定的に欠けている軍事的自立を達成することです。(週刊新潮)
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