日本のメデイアは軍事情報に疎い特徴がある。平和と軍事を対立概念でとらえてきた戦後思考の影響がある。だから北朝鮮のノドン・ミサイル200基が日本の基地や都市に照準を定めていると言ってもピンとこない。
そのくせ、テポドン・ミサイルの発射実験地が東海岸か、似海岸かで騒いでいる。平壌と東京の直線距離はせいぜい1600キロであろう。射程6000キロとも10000キロといわれるテポドンは日本上空を越えて、遙かアメリカ本土を狙う大陸間弾道ミサイル。東海岸か、西海岸かで騒ぐほどのものではない。
もっとはっきり言わせて貰えば、日本にはノドンを叩く意志もなければ、その能力もない。だが、アメリカはテポドンが実験ではなく、実射されるとみれば、発射基地を先制攻撃する。金正日総書記ら領袖がいる平壌を攻撃することも厭わないであろう。
それを知っているから北朝鮮も危ない橋は渡らない。
ところで、米シンクタンク「全米科学者連盟」のハンス・クリステンセン氏が、「中国海軍の攻撃型潜水艦が昨年、過去最多の計12回の哨戒活動をしていたことが分かった」と公表した。
これも日本のメデイアの扱いは小さいか、無視している。その中で産経新聞が詳しく報道しているが、必ずしも十分な軍事情報とはいえない。中国海軍の攻撃型潜水艦が昨年、12回という哨戒活動したというのは、07、08年に7回が確認されたロシア海軍を抜いていて驚くべきことだが、これでもって米国の脅威になるとは思えない。
<【ワシントン=山本秀也】米海軍が確認した中国海軍の潜水艦による昨年の哨戒活動は、前年(2007年)の2倍にあたる年間12回と、過去最多を記録した。核戦力の動向に詳しい米シンクタンク「全米科学者連盟」(FAS)のハンス・クリステンセン氏が、米情報公開法に基づき海軍情報部に情報開示請求を行い明らかになった。
1980年代のトウ小平時代に始まった外洋型海軍をめざす中国の潜水艦戦力の強化が、西太平洋で大幅に進んだことが裏付けられた。
潜水艦が確認された水域や発見状況については、米海軍が公表に応じていないが、中国潜水艦の外洋活動の水域はこれまで、グアム周辺や日本近海など西太平洋に集中していた。クリステンセン氏は哨戒活動について、「潜水艦基地から離れた長距離の航海であり、短期間の訓練とは異なる」と指摘した。
米海軍が確認した中国潜水艦の哨戒活動は、1980年代から2007年までは「年平均ほぼ2回」のペースにとどまっていた。2ケタの活動回数が確認されたのは昨年が初めて。2年連続で5回以上となることもこれまではなかった。
年間12回という哨戒活動の回数について、クリステンセン氏は「07、08年に7回が確認されたロシア海軍を抜いた」として、急増ぶりに驚きを示した。
哨戒活動の中心は、これまで04年11月に石垣島周辺海域で日本の領海侵犯事件を起こした漢(ハン)級攻撃型原潜(SSN)などだったが、後継として実戦配備が始まった商(シャン)級攻撃型原潜への交代が進んでいるもようだ。(産経)>
軍事情報だからクリステンセン氏も肝心なところはぼかしている。まず攻撃型潜水艦というが攻撃型原子力潜水艦と攻撃型通常動力潜水艦かが明らかでない。攻撃型原子力潜水艦の哨戒活動が急増したとなれば、米国にとって脅威となる。
中国は1974年に攻撃型原子力潜水艦を完成、2000年代に入って第二世代の攻撃型原子力潜水艦を建造しているといわれるが実態は分からない。またアメリカにとって最大の脅威となる戦略弾道ミサイル原子力潜水艦も実験艦の建造が確認されているが、実戦配備されているか定かでない。
その中で支那の歴代王朝の名を冠した攻撃型通常動力潜水艦が依然として潜水艦戦力の主力になっているのではないか。明型潜水艦というのがある。潜水艦にとって禁物の騒音が極めて高く、さらに電気火災を起こした事もある旧型艦。建造は武漢造船所。
原設計は1940年代という骨董品ものだが、21隻が就航。1隻が喪失、3隻が解体したが17隻が依然として現役である。2003年11月に九州の大隅海峡を明型潜水艦が国旗を掲揚して通峡している。海上自衛隊のPー30哨戒機が監視任務にあたった。マスコミは中国脅威論と騒いだが、ポンコツ艦の出現に騒ぐところが平和国・日本らしい。
明型潜水艦の後継艦として1999年から就航しているのが宋型潜水艦。このほか2004年に初めて存在が確認された中国最新の元型潜水艦がある。建造は武漢造船所だが、宋型潜水艦は8隻が就航。元型潜水艦については分からない点が多い。
海上自衛隊のおやしお型潜水艦に対抗して設計されたという宋型潜水艦だが、2006年11月のワシントン・タイムズには、宋型潜水艦が沖縄近海で米空母「キティホーク」を追跡し、5マイルという対艦兵器使用可能範囲内で浮上したと伝えた。米軍は宋型潜水艦が浮上するまで探知できなかったとされている。明型潜水艦よりも格段と能力が強化された潜水艦といえそうである。
しかし通常動力型潜水艦では長期間潜行能力に欠けるという問題がある。海上自衛隊の「はるしお」「おやしお」など攻撃型通常動力潜水艦と同じように宋型潜水艦も同じ問題を抱えている。長期間の潜行能力では原子力潜水艦が最も優れている。
しかし中国海軍は技術面、資金面でアメリカの様な原子力潜水艦主体の海軍力には達していないとみるべきであろう。長期間潜行能力に欠ける宋型潜水艦だから、米海軍に確認されるケースも多くなる。12回という回数だけで中国海軍の潜水艦能力が飛躍的に高まったとみるのは早計であろう。
杜父魚ブログの全記事・索引リスト
2842 中国海軍の潜水艦能力は? 古沢襄

コメント