2894 小泉さんの「政局カン」 花岡信昭

さすが小泉純一郎という政治家の「政局カン」はたいしたものだ。「カン」とカタカナで書いたのは「観」「勘」の双方の意味を含めたかったからだ。
次期総選挙に出馬せず、引退表明をした元首相である。それも息子に譲るという「親ばか」ぶりを発揮して、小泉ファンの中にはがっくりきた向きも多かったに違いない。(もっとも本人も祖父、父に続く3世議員なのだが)。
要は小泉氏の手法は「ケンカ戦法」である。郵政解散もこれで成功した。敵味方を峻別して、がけっぷちの状況を作り出し、そこで究極の勝負を挑む。
かつての東映任侠映画を思い出す。ラストになると、高倉健サンは白刃をひっさげて悪玉の敵地に乗り込み、ばっさばっさと切りまくる。
映画館から出てくる男たちは、みんな肩をいからせて健サンスタイルだった。これがカタルシスというやつだ。これを永田町にあてはめると「ガス抜き」ということになる。
小泉氏の発言はざっくりとくくれば次の2点だ。
・定額給付金について・・・本当に3分の2を使ってでも成立させねばならない法案とは思えない。
・郵政民営化に反対だったという麻生首相の発言について・・・笑っちゃうくらいあきれてる。
これが新聞の1面トップ記事になり、与野党を震撼させ、政局に多大な影響を及ぼしているのだから、これは脱帽だ。小泉氏はやはり「ただもの」ではなかった。
この結果、どういう状況が生まれているか。
自民党内は一気に緊張感が出て引き締まった。民主党内には、「また小泉劇場にやられるのでは」と疑心暗鬼が走った。
逆説的な言い方になるが、結果的には、前提条件つきだが、麻生首相には悪くない展開だ。
前提条件というのは、この小泉発言によって、自民党内の「反麻生勢力」が勢いを増し、衆院再可決に必要なラインを維持できないほどの造反が出るかどうか、という点だ。
具体的には、自民党から16人以上の反対、47人以上の棄権・欠席が出れば、再可決はできない。だが、そのラインが危ぶまれる状況には、いまのところ至っていない。
ここがポイントだ。自民党執行部は必死になって、造反を起こしそうな議員をつぶしにかかっている。これによって、党内に緊張感が生まれている。
小泉政治というのは、両面の見方があった。郵政民営化をはじめとする構造改革路線を推進し国民の高い支持を得たこと、そして、他方で自民党の旧来型の集票マシーンをがたがたにしたこと、である。
では、あの驚異的な大勝を果たした郵政総選挙とは何だったのか。無党派票の行方が結果を左右した。
無党派というのは、政治にはなから無関心な層とは別に、政治意識の高い「積極的無党派」といっていい層が存在する。小泉郵政総選挙はこの双方の無党派がごそっと動いた。
いま、世論調査の政党支持率を見ると、自民、民主両党で5割程度だろう。ほかの党の支持率も考えれば、4割ぐらいが無党派といっていいことになる。この動きが選挙の結果を決める。
無党派の中に「バッファープレーヤー」といっていい層がある。政治全体について情報をよく知っていて、こういうかたちにおさまればいいなという構図を描き、それを実現させるために自分の1票を使おうという意識の高い層である。ここがどう動くか。
もっといってしまえば、この層がいま考えているのはおそらくこういうことである。選挙をやったら民主圧勝といわれている。民主にそんなに勝たせていいのだろうか。小泉発言に見られるように、自民党にもさまざまな声がある。ここはいったん腰を落として考えてみるべきだ・・・
小泉発言の重要な点は、このことである。緊張の局面を作り出し、ガス抜き効果、カタルシス効果を周到に計算しながら、転換をはかる。
そういう観点に立てば、小泉発言を「反麻生」の側面だけから見ていると、ちょっと違うことにもなりかねない。小泉氏は意外に「麻生支援発言」をしたのかもしれないのだ。
それが真の狙いだったとすれば、小泉氏というのはたぐいまれな政治家と改めて感嘆する以外にない。
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