麻生太郎首相は本気で重い腰を上げたのだろうか。ようやく公務員制度改革に乗り出したかに見える。2月3日、衆議院予算委員会で、公務員の天下りや渡りを、今年いっぱいで廃止する政令をつくると表明した。また、同日、国家公務員制度改革推進本部の会合を開き、今後4年間の制度改革の道筋を示す工程表を決定した。
天下りがいかに広く実施され、深く日本社会を蝕んできたかについては、2007年の衆議院調査局の調査結果を見るのがよい。そのすさまじい実態は、同年6月23日号の本誌でも詳報された。天下り先の法人数は06年度で約4,600、天下った役人は約2万8,000。4,600法人のなかには、役割を終えた公益法人や独立行政法人が掃いて捨てるほどある。それら数多の無意味な組織に注入された12兆6,000億円の税はすべて、天下り役人を養うために使われた。
麻生内閣の公務員制度改革に反対して、闘いの前線に立つのが人事院総裁の谷公士氏だ。氏は郵政事務次官を経て退官後、郵便貯金振興会理事長への天下りからスタートし、その後三法人に理事長、会長として天下った。一連の渡りを繰り返して、06年4月、人事院総裁に就任した。
谷氏は麻生内閣の公務員制度改革によって「労働基本権制約の代償機能が損なわれる」と主張する。
スト権を認められていない公務員に代わって、給与をはじめとする労働条件や人事について、人事院が公務員を守ってきたが、公務員制度改革でその機能が果たせなくなり、公務員の労働基本権が守られなくなると言っているのだ。麻生改革は、公務員の採用、給与、人事機能のすべてを、現在それを扱っている人事院、財務省、総務省などから「内閣人事・行政管理局」(仮称)に移管するものだ。
政治評論家の屋山太郎氏が語る。
「谷氏の主張はなにをかいわんやです。人事院は、冷戦最中に占領軍が日本につくらせた、他国に例のない制度です。公務員が共産主義勢力にからめとられるのを恐れてスト権を与えず、その代わりに創設した。いまや情勢は大きく変わったのですから、公務員にもスト権を与え、人事院を廃止すべきです」
甘利明行政改革担当相は、担当大臣として、谷氏に話し合いに応ずるよう促した。その大臣要請を拒否した谷氏を「あんな不遜な官僚は見たことがない」と憤った。その憤りはもっともだ。政治の方向は国民の代表である政治家が構成する立法府が決定し、それに従って行政府が執行する。行政府の長は麻生首相、公務員制度改革の長は甘利行革相だ。その下に人事院総裁としての谷氏らがいる。にもかかわらず、谷氏の反乱は、自己利益追求のみに走る卑しい行為である。国民や国益を置き去りにする言語道断の行為だ。
今も谷氏は、法案ができるまで「(首相らに)説得を続ける」、つまり、抵抗を続けると公言しており、官僚たちは麻生改革に対して比較的余裕の表情だ。屋山氏が語る。
「彼らは、本丸は法案だと考えている。3日の推進本部会合で、麻生首相は、『人事院と、残った論点の調整をするよう』指示しました。この発言は官邸の官僚と人事院が言わせたようなもので、その心は、『法案提出は、調整がつかない限り認めない』ということでしょう。工程表には11年度に天下り根絶に対応した新たな制度をつくると書かれている一方で、首相は天下りと渡りを今年いっぱいでやめると、国会答弁しました。整合性を欠きます。新制度をつくる前に天下りを全廃するということか。だとしたら、改革推進の立場から見ても、とうてい無理です」
年末までには天下りをやめさせると言い切った麻生首相の意気込みも言葉も、評価したい。年末には政権が交代している可能性も高い。時間は限られている。麻生首相は本気で頑張れ!(週刊ダイヤモンド)
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2906 麻生首相は本気で頑張れ! 桜井よしこ

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