ニューヨークタイムズの大株主=カルロス・スリムって誰?メキシコの通信王が、なぜアメリカの活字媒体に将来性を見るのか。
カルロス・スリム・ヘルーはメキシコの通信王にして、億万長者(推定資産440億ドル)。そのスリムが先頃、経営不振、赤字を抱えて悲鳴をあげるNYタイムズに、ポンと2億6000万ドルを貸し付けたから世界のマスコミ業界は驚いた。
その度胸に? いや、その高利に、である。年率14%もの利息をNYタイムズは「配当」としてスリムが所有することになる転換社債のために支払う。
▲旧来のセンスでマスコミをみていないか?
スリムはメキシコ最大財閥にして、中南米での影響力は、メキシコだけにとどまらずエル・サルバドルで彼を批判する記事を載せたスペイン語の媒体には翌日から広告が激減した。背後にスリムの差し金があったと言われている。
かれの通信企業はメキシコの固定電話市場で70%、携帯電話市場で90%のシェアを誇る。
スリムはマスコミを経営しながら、マスコミに露呈することをいやがり、NYタイムズ筆頭株主におさまった(17%弱)。しかしなぜ「新聞や雑誌への三行広告(求人広告など)が激減し、これからiポッドやiフォンなどの電子出版にビジネスが流れようという時代なのに」(英誌『エコノミスト』、2月14日号)、カルロス・スリムはなぜ、ペーパー媒体にこだわるのだろう。
げんに世界最大のマスコミ王といわれるルパート・マードック経営の「ニューズ社」は2008年第四四半期に64億1700万ドルの最終赤字に転落。主因はFOXテレビの広告減収とダウ・ジョーンズなど新聞媒体の大幅な減収による。
マードックは2007年にウォール・ストリートジャーナルを発行するダウ・ジョーンズを56億ドルで買収し、タブロイド版に切り替え、編集方針に反対するエディターをばっさり首にしていた。
スリムは「2007年までの成功者」=マードックにあやかろうと計算違いをしたのか。
かれはNYタイムズが1300名の社員を抱えることを知らなかった。そのうえ、「スリムはメキシコ政府から独占禁止法で訴えられている」(IHI,2月17日付け)ほど、悪名も又高い。
メキシコにおけるビジネスの闇と関係があるのか、ないのか。
おりしも米国ではカジノ経営のドナルド・トランプが三回目の会社更生法。ラスベガスは閑古鳥で、どの国際会議場も人影がまばら。ヘッジ・ファンドもカジノ経営者も、マスコミ・ビジネスは「破綻したビジネスモデル」として捉えている。
▲ニュースの卸売業=通信社もお先真っ暗
「ニュースの商人」=ロイターが持てはやされた時代は終わった。ニュースの卸売りだって、小売りのラジオ、テレビ、新聞が不景気になれば売り上げが激減するに決まってますからね。
第一は既存のメディアが不況のため、通信社からの配信ニュースを買わない、買えない社が出てきた。
全米に2000あるローカル紙の統合、整理、倒産、廃刊が急ピッチで進んでいる。そのうち1300社は独自のウェッブサイトでニュースを配信している。
第二にCNNやダウ・ジョーンズなどが反対に、自分たちの支局を駆使してロイターやAP並みに通信社業務に殴り込んできた。これは中東産油国、インドなどで収益をあげているという。
第三にこれまでは金融の世界、とくに銀行と証券に特化された経済ニュースを売り込んできた、収益の高いブルームバーグとて、顧客が倒産、廃業、被合併、縮小、支店整理など金融危機による大不況に遭遇した。
ブルームバーグとロイターは情報の卸売業と平行して情報の小売り業務も始めることにした。ウェブにニュースを掲載して読者とのアクセスを直結すれば、広告料がたくさん取れると読んでのことである。実際に、両社のウェッブには無料で繋がる。
さらに小売りをiポッドにも流通させ、行動料金を取る新ビジネス。
「着メロにカネを支払う人が多い世の中、どうしてニュース配信を希望する個人が、情報は重要であり、カネを支払わないことがあろうか」というわけで強気の近未来をよむ業界アナリストもいるという。
世界のマスコミ、地殻変動中。日本の大手マスコミも、いつまで胡座をかいて居られるだろうか?
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2913 世界のマスコミは地殻変動中 宮崎正弘

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