戦前の日本は陸軍の力が強かった。明治維新以降、富国強兵が国家の基本政策となって日清戦争、日露戦争、満州事変、支那事変と大陸での戦争を拡大してきた。過去の歴史をみても陸軍国家は同時に偏狭なナショナリズムを鼓舞する傾向がある。
中国は明らかに陸軍国家といえる。江沢民時代に極端な反日政策がとられたのは、国内の不満層を押さえ込む偏狭なナショナリズムに依拠したといえる。今もって中国軍の幹部クラスに江沢民派が依然として強い影響力を持っていると宮崎正弘氏は指摘しているが、その残滓が残っているといえる。
海軍は広く海外に視野を持つ特徴がある。日本海軍は英国海軍をモデルにして建軍されている。海軍兵学校を出た士官の卵は、卒業に際して遠洋航海の洗礼を受けた。様々な国に寄港する海軍士官は外交官的役割を持って、海軍的なマナーを仕込まれた。
陸軍にはこういう制度がない。加えて旧制中学の一年、二年から進学する陸軍幼年学校の出身者が士官学校、陸軍大学校を出て、陸軍の主要ポストを独占してきている。日本陸軍はプロシア(ドイツ)陸軍をモデルにして建軍された。
少年時代から軍隊組織に組み込まれた陸軍士官に広く海外的な視野を持てといっても、そういう士官教育をしてこない。旧制中学を出て士官学校に入る制度もあったが、幼年学校出の陸軍士官の下風に置かれ、陸軍大学校に進む道はほとんど閉ざされている。
無謀な日米戦争に突入した一つの理由として、幼年学校コースの人材しか重用しなかった陸軍の教育制度に欠陥があったとする指摘が為されている。開戦時の東條首相は府立第四中学(東京府城北尋常中学校 現・都立戸山高校)の二年生から東京陸軍幼年学校に進学した。幼年学校ではエリート教育といわれたドイツ語学科の卒業生。
大正四年に陸軍大学校を卒業しているが、海外経験としてはスイス駐在武官(大正八年)とドイツ駐在(大正十年)ぐらいである。英国や米国を知らないまま陸軍の最高ポストである陸軍大臣に登りつめている。
第一次世界大戦以降、米国は世界の強国に踊りでている。英国は海軍国家として強い影響力を保持していた。強国である英国や米国の実力を知らない陸軍の最高実力者が日米戦争を指導したところに日本の不幸がある。
東條首相の戦争責任を追及する前に日本陸軍の教育制度に根本的な欠陥があったといえる。大なり小なり陸軍国家には同じ様な傾向がある。たとえば北朝鮮は極端な陸軍国家だが、陸軍で少佐以上に昇進するには金日成軍事総合大学を卒業しなければならない。
教育内容は軍事学や情報学や戦術論が主で、外国語はロシア語。もっぱら南進のための教育・訓練という偏った教育をしている。韓国の陸海空士官学校は米国の軍学校をモデルにしたので、広い視野と教養を重視しているのと大きな違いがある。
中国は今、海軍力の強化に狂奔している。軍事力の強化には問題があるが、航空母艦や潜水艦などの強化よりも広い視野と教養を重視した海軍士官の教育に力を入れてくれれば、偏狭なナショナリズムを鼓舞する江沢民派の力を削ぐことが期待できる。だが、教育には時間がかかる。あまり多くは期待できないというのが現実なのかもしれない。
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