3054 台湾に1300基のミサイルが照準 宮崎正弘

傍で見ているとハラハラどきどき。奇妙な中台関係の物語。中国は台湾向けミサイルを増強、台湾は逆に兵力の20%を削減。
閉幕した全人代で経済成長は8%堅持(保八)が謳われた。同時に国防費の増額が14・9%(08年は17・6%だった)。連続21年の二桁成長路線に変更はない。
第一に、党に従属する筈の中国人民解放軍のご機嫌を雇用主であるはずの中国共産党が取らないと独裁政権がやっていけない。
第二の理由は中華思想の偏執的パラノイアがあって世界の覇権を握るのが、「中華民族」の夢だからだ。これは党幹部と軍の上層部に共有するメンタリティである。
第三はすでに軍産複合体が肥大化し、産業の根幹を形成し、国家の生存がかかっているからである。この軍学産構造は、米国も同じ、そして嘗てのソ連は、この病巣ゆえに国家倒産となった。
とりわけ特筆するべきは海軍力の突出的な拡充である。
「1995年と96年の台湾ミサイル危機まで、中国は海軍を増強する戦略的意図の実践にほど遠かったが、台湾防衛のために米軍が差し向けた二隻の空母集団を前に引き下がらざるを得なかった屈辱から、海軍増強のスピードをあげたのだ」(エリス・ジョフェ=エルサレム大学客員教授。『ファー・イースタン・エコノミック・レビュー』誌、2009年参月号)
いま中国海軍の陣容は五隻の原子力潜水艦、二十二隻の通常型潜水艦に十隻の駆逐艦、六隻のフリゲート艦。なかでもSLBM搭載の駆逐艦四隻は最新鋭。これにくわえて空母二隻を建造する方針で、鄭和600年記念に国際海洋へ進出を果たして以来、いまではソマリア沖へ六隻の軍艦を派遣して国際舞台に偉容を示威するまでに成長した。
「ただし全人代では軍首脳が人民代表に空母の必要性をロビィしていたのが特徴的で、また戦力増強も対外的と言うより国内向け(暴動鎮圧対応)に拡充されている」(ウィリー・ラム、米国ジェイムズタウン財団発行『チャイナ・ブリーフ』、3月19日付け)。
一方、1300基のミサイルの照準をあてられている台湾は、なんと陸軍の20%を削減し、さらに徴兵制を廃止するという(1300基は台湾国防部、17日発表)。驚くべき楽天主義。馬英九政権は狂ったのか?
▲鄭和いらい、公海を遊弋する中国海軍の突出
言うまでもなく背後にあるのは米中関係の変化である。ワシントンはむしろ台湾に圧力をかけて「独立を言うな」「問題を起こすな」として、李登輝、陳水扁の独立傾斜を露骨に牽制し、その動きに便乗した国民党は陳水扁の八年間、米国からの武器購入を断り続けた。
2007年、ようやく国民党統治システムの復活がみえるや、台湾は90億ドルもの大金を支払って、パトリオット・ミサイルと対潜水艦哨戒機P3Cオライオンを購入することとなった。
しかしながら台湾の切望した最新鋭潜水艦とジェット戦闘機改良型は供与されずじまいとなった。
このため装備の近代化を達成しつつある中国に対抗して、台湾軍は装備の近代化、兵力の効率化とプロ化、無駄な兵力の削減ならびに先制防御システムへの切り替えを、新しい方針とする。
「今後五年以内に台湾軍は志願兵を主体のプロ兵員215000人体制とする」(『ザ・オーストラリアン』紙、3月18日付け)。
今回の米国の台湾向け兵器供与のなかには、台湾が要求した66機のF16ジェット戦闘機改良型は含まれていない。
台湾空軍スポークスマンは「次世代戦闘機はF22,F35,或いはトーネードになるだろうが、どの機種を選択するかは未定」(3月17日記者会見。チャイナポスト、18日付け)。トーネードはNATOの主力。つまり脱アメリカを選択肢にくわえている。
馬英九は狂っていない。かれの目は北京よりワシントンを先に見ている。
米国が「トラブルを起こすな」と言えば、その通り「独立」を口にせず、それが地域の安定に繋がり「われわれはピースメーカーを目指す」などと本気に信じている節がある。台湾の主権、台湾の自主性という概念は、かれには希薄である。 
それで良いのか、どうか。それは台湾2300万国民が決めることであるが。
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