「IMFは不公平、新通貨システムをつくれ」と中国が提唱。ロンドンG20サミット直前に北京は強い政治的影響力を狙う。
中国の中央銀行は「中国人民銀行」。周小川総裁は国際的バンカーとして著名で、欧米の経済紙にもカラー写真がよくでる。日本の日銀総裁は、名前さえ知られていないが。。。
その周総裁が発言した。「IMFを改善し、米ドルに替わる国際通貨システムを創設することを示唆した」(ニューヨーク・タイムズ、3月24日付け)。
ミソはIMFをそのままにシステムを改善する。しかし基軸通貨は新しいもの、それをIMFが管理する。
理由は「国際的な金融危機が啓示したことは(米ドル基軸という)現有制度が、固有の脆弱性とシステミックなリスクをもたらしたからである」。
周総裁の提言は「IMF特別引き出し権(SDR)の存続の是否、その機能を国際社会は再考すべきであり、新しいIMFシステムは新国際通貨のもとで、個別国家とは距離をおく、安定的で長期に機能する“外貨準備通貨”とするべきだろう」。
米国に衝撃を与える内容である。ついに軍事覇権の野心から通貨覇権の野心をむき出して将来的には米国の経済覇権を脅かそうというわけであるのだから。
これは日本にとっても近く変動的な衝撃であろう。つまり、ドルに替わる次の通貨体制をいまだ想定もしていない、日本の財務当局や、日銀ならびに外務省、これらに左右される日本の政治家の貧弱な頭脳からは発想さえできない、「想定外」の構想であり、思想的な経済学者、或いは哲学がわかる国際エコノミストの発想である。
▲ブレトンウッズ体制は終わりの始まり
ブレトンウッズ体制の発足は、1944年、ジョン・メイナード・ケインズとモンゲンソー米財務長官との「創作」だった。2009年は周小川と誰々の合作となるのか、いや、それが歴史に残る?
「次の数年以内に、中国はその巨大な外貨準備を米ドル建てで保有しているために、価値の激減に見舞われるのは必定。だからこそG20(ロンドン・サミット)直前に、こういう提唱をしたのだろう」(同NYタイムズ)。
温家宝首相も3月13日の発言では「米国の天文学的な金額による金融安定化、公共事業増大は、必然的にドルの価値を低める。それは中国が保有する財産の安全に影響するため、強い関心を抱いている」。
中国は単純な計算だけで言っているのではない。ニコラス・ラーディ(中国経済専門家)は、「中国は長期に亘るドル支配を不公平と考えており、海外から巨大な赤字をファイナンスして、財務相証券の保有者を増やさせるが、他方でインフレを招き、ますますドル保有の価値を減額させることになると解釈している」。
また別の観測筋は「G20」(ロンドン・サミット)直前の政治的発言であり、中国の発言力の高揚を狙ったもの」と観測気球の段階である分析だ。
▲香港も動揺し、香港ドルと人民元ペッグ制を行政長官が示唆
香港は動揺を繰り返す。香港ドルは米ドルとの固定制、人民元も米ドルとの固定相場制(いずれも準固定相場で狭いレンジで、制限枠内では変動相場制)。
香港ドルが、イギリス植民地時代から、まがりなりにも「国際通貨」である所以は、発行金額分を当局に預託して人為的な信用を創造しているからだ。
それが信任される淵源で、香港ドルを発券する銀行は三つもあり、主力はイギリスのHSBS(香港上海銀行)と同じく英国系「スタンダード銀行」。85年に、この発券業務に「中国銀行」が参入した。
人民元は長らく1HKドル=8・2米ドルの固定制度だったが、06年から切り上げを始め、いまや1ドル=6・99人民元ほどに強くなった。
同期間、香港ドルは中国経済に押されて、明らかに弱体化し、人民元100に対して、香港ドルが95以下。その立場は三年前から完全に逆転している。
そして香港行政長官のドナルド・ツァン(事実上の香港の首相)が言った。「香港ドルと(米ドルではなく)人民元との通貨ペッグ制を考えるべきであろう」(ウォール・ストリート・ジャーナル、3月25日付け)。
この発言は香港での経済投資フォーラムの席上、クレディ・スイス・グループからの質問に答えた。
香港は週初来、通貨防衛のために為替介入を続け、三日間で54億香港ドルを売却し、また09年3月24日だけでもNY通貨市場に介入し、31億香港ドルを売った。
もっとも香港市場でさえ、ドナルド・ツァン発言をまっとうに受け取る者は少なく、もし人民元ペッグ制に香港が移行するとしても、時間的には、五年以上、十年はかかるだろう。おりしも同日、中国銀行は経常利益マイナス59%と発表したばかりだし・・・。
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