3134 金正日の共犯者 伊勢雅臣

核武装に突っ走る北朝鮮・金正日政権を育てた責任はアメリカと日本にある。北朝鮮がまたミサイルを発射しました。かの国の姿勢は、前回、98年のミサイル発射とまったく変わっていません。このあたりを論じた国際派日本人養成講座137号(H12.05.07)を、再発信させていただきます。
■1.東京を火の海にできる■
1993年1月、北朝鮮人民軍の大佐、康明道は出張で平壌から元山高速道路で江原道(カンウォンド)へ向かっていた。同乗していたのは、保衛大学時代の友人、沈玄燮(シムヒョンソブ、仮名)。沈は江原道ロケット(ミサイル)部隊の現役将校で、休暇が終わって、帰隊する所だった。
沈はミサイル開発の状況をつぶさに知っていた。彼の話によれば、北朝鮮はすでに長距離ミサイルであるノドン一号の開発を完了し、94年からは量産体制に入るということだった。
東京を火の海にすることのできる大陸間弾道弾ミサイルもすでに配置してある。と彼は言った。深刻な経済状態をよく知っている康は、冗談半分に「食糧も底をついている状態なのに、ロケットなんか作る金なんかありゃしないだろうよ」とわざとカマをかけてみた。すると、彼は「そのうちわかるよ」と言って、にやりと笑った。
2時間ほど走って、江原道法洞(ポプトン)展望台についた。沈は展望台の東側に康を連れて行き、自分の双眼鏡で、ある地点を見てみるように言った。康がのぞいてみると、巧妙にカモフラージュされた銀色の物体が見えた。彼はたった一言いった。
SSミサイルだよ。
■2.金日成・正日の核開発決心■
康明道は、金日成の従兄弟で北朝鮮の総理を二度も務めた姜成山の娘婿と血筋も良く、人民武力部直属の保衛大学研究室長などエリートの道を歩んできた。韓国に亡命した後に著した文献は、核ミサイル開発、国営偽ドル工場、ヘロイン密輸など、まさに北朝鮮高官しか知り得ない機密が明らかにされており、また様々なソースからの情報でも信頼性が高い、と確認されている。
康明道によれば、金日成・正日親子が核開発を決心したのは、76年8月のポプラ事件であるという。板門店で米軍将校2人が北朝鮮軍兵士に殺害されたこの事件で、南北は戦争の一歩手前まで行った。しかし南には米軍の核兵器が千個もあるのに、北には一つもない。これではとても南には対抗できない、と金親子は危機意識を持った。
ところがソ連はブレジネフ書記長の時までは、北の核開発を許さなかった。北朝鮮が核を持ったら、南北間の軍事的均衡が壊れ、ひいては米ソの緊張も高まる、という恐れからだった。「70年代を祖国統一の元年にする」ことをモットーとしていた金日成はブレジネフの姿勢に激昂していた。
82年に登場したアンドロポフ書記長は、レーガンの軍備拡張に対抗すべく、「あらゆる手段と方法を動員し、朝鮮民主主義人民共和国の宿願である統一を支援する」として、北朝鮮に対する核開発援助に乗り出し、70人におよぶ核技術者を送り込んだ。
■3.核兵器はすでに完成した■
北朝鮮は1985年12月に核拡散防止条約(NPT)に調印し、ソ連から研究用小型原子炉二基を供給され、さらにプルトニウム生産のための核再処理工場の建設を開始した。
93年3月、IAEA(国際原子力機関)は特別査察で、プルトニウムの組成、量で北朝鮮の報告とは「著しい相違」(IAEA)を見つけたため、寧辺近郊にある二つの核廃棄物貯蔵施設への特別査察を求めた。北朝鮮はこれを拒否し、NPT脱退を決定した。
この頃、康明道は、寧辺の核施設を担当している国家保衛部の責任者から、「核兵器はすでに完成した。問題は、この局面をどのようにしのいで、目標の20個を作るかにかかっている。」との話を聞いている。
同じく93年5月、北朝鮮は射程1千キロのノドン1号を日本海に向けて発射し、成功。冒頭で紹介したように、康明道が「ノドン1号の開発が完了した」と聞いたのは、この4ヶ月前にあたる。日本の国土の大半が射程距離に入った。
■4.米国クリントン政権の宥和政策■
93年6月からのアメリカとの交渉で、NPT脱退は一応凍結されたが、北朝鮮は94年3月、IAEA代表による寧辺の核施設の査察を拒否、入国差し止めや国連代表達の身柄を拘束するなど、暴挙に出た。
3月19日には板門店での南北対話実務者レベル会議の席上で、北朝鮮代表が「ここ(板門店)からソウルは遠くない。ソウルは火の海になるだろう」と発言し、南北会談は決裂した。
国連での経済制裁決議採択は時間の問題とみられていたが、北朝鮮外務省高官は、「もし日本が国連の対北朝鮮経済制裁に参加したら、日本にははかり知れない災害がおよぶだろう」と恫喝した。
米国クリントン政権は宥和政策をとることを決定し、94年10月北朝鮮との「合意枠組み」に到達した。黒鉛減速型原子炉と関連施設の活動の凍結、将来の解体と引き替えに、KEDO(朝鮮半島エネルギー開発機構)を設立しての50億ドル以上と言われる軽水炉建設の資金援助、その完成までのアメリカによる毎年50万トンの重油供与、さらに人道的米援助を約束した。50億ドルのうち、10億ドルは日本が負担する。
クリントン政権は、ヒットラーに対して宥和政策で増長させ、かえって第2次大戦を招いたイギリスのチェンバレン首相になぞらえて、共和党などから「現代のチェンバレン」と批判された。
■5.オルブライト国務長官のうそ■
98年4月、米国国防情報局(DIA)は、北朝鮮の核開発が依然として進められていることを極秘報告書にまとめた。それによると金倉里と泰川に秘密地下施設が作られ、ミサイル搭載用の核兵器の開発・生産が行なわれている。
DIAは、韓国軍情報機関が金倉里から持ち出した土と水を分析し、プルトニウムの痕跡を検出した。また偵察衛星により起爆装置の実験が少なくとも3回は成功したこと、および、反応炉の防護壁用の部材が移送されている事を掴んでいる。
しかし、米国国務省は、北朝鮮で核開発が続けられていることを認めたがらない。宥和政策による「合意枠組み」が失敗であった事が明らかになってしまうからだ。
98年7月、オルブライト国務長官は上院の財政委員会で、合意のおかげで「北朝鮮の危険な核兵器開発は凍結された」と語った。それまでにオルブライトは何度も、議会で同様の発言をしていた。
8月、北朝鮮の核開発が続いているとのDIAのブリーフィングを受けて、怒った上院議員たちが問いつめると、オルブライトは、自分も7月までは知らなかった、と答えた。そこにDIAのヒューズ局長が「国務長官、それは正しくありません。」と割って入った。DIAは1年半も前から、この情報をオルブライトに届けていたのだ。オルブライトは口をつぐんだ。
金倉里の地下施設への米国調査団の立ち入り調査は、99年5月に行われたが、「施設全体は未完成で、地下には空の巨大なトンネルしかなかった」として、国務省はシロの判定を下した。
しかし、疑惑発覚後9ヶ月も経っており、核開発疑惑につながるような建造物があったとしても、この間にすべて撤去できたはず、と言われている。また監視カメラの設置や土壌、水のサンプル採取なども行われず、プルトニウムの抽出を行っているといわれる泰川は対象から外された。北朝鮮はこの調査の見返りとして60万トンの食糧支援をアメリカから受け取った。
■6.日本や米国に向けた核の砲口■
98年8月31日、北朝鮮は三段式のテポドン改良型ロケットを打ち上げた。第一弾は日本海に、第二弾は日本上空を越えて太平洋三陸沖に、第三弾はアラスカ沖、射程6千キロの海上に到達した。旧ソ連の軍事技術者約200人が協力したと伝えられている。
DIAの報告書は次のように結論づけている。
・ 核燃料物質を長距離ミサイルの弾頭に装着し、核弾頭を実戦配備するまでに、3年はかからないであろう。
・ 北朝鮮はこのほかにも、生物・化学兵器の開発を進めており、KEDO発足後もこれらの計画は進行中である。
・ このまま北朝鮮を放置した場合、21世紀初頭には、世界第五位の軍事大国が日本や米国に核の砲口を向けることになり、東アジア情勢は激変する。われわれはなんとしてもこうした事態を食い止めなければならない。
ソ連が崩壊し、中国が解放政策に転じているのに、北朝鮮のみが独裁権力世襲に成功し、大国アメリカを引きずり回して、軽水炉建設援助や食料支援まで得ているのは、金正日の核武装戦略の”偉大な”成功と言える。何よりも対北朝鮮外交の失敗を認めたくないクリントン政権を共犯関係にひきずり込んだのは、天才的な手腕であった。
この間、自国民が毎年100万人以上も餓死していていても、金正日の権力維持にとっては大した問題ではないようだ。
■7.もう一人の共犯者■
実は、北朝鮮の共犯者はもう一人いる。ソ連崩壊後、後ろ盾を失った北朝鮮がなぜ核開発やミサイル開発を続けてこられたか。日本からの資金と技術によってである。
93年12月28日、羽田外相(当時)は、日本記者クラブでの会見で、内閣調査室から、朝鮮総連からの送金は年間2000億円規模という報告を受けている、と語った。当時の闇レートでは、1500億ウォンとなる。90年の北朝鮮国家予算350億ウォンの4倍以上である。
朝鮮総連はなぜこれほど巨額の資金を作り出せたのか。脱税行為である。朝鮮商工会は、在日朝鮮人に代わって、税務署との交渉を担当し、強硬な手段で浮かせた税金の一部を手数料として受け取った。
その額は、少ない時で一件2,3百万、多いときは数千万という。93年に商工会は、所得税等3万6千件、法人税5500件の交渉を”解決”したという。
しかし、バブル崩壊後は、総連系商工人も打撃を受け、脱税しようにも利益そのものが減少してしまった。かわりの手段が、朝鮮総連関連の土地・建物を担保に、実勢価格以上の不正融資を行い、送金額をひねり出すという手だ。
不良債権で99年に経営破綻した朝銀大阪には、不正送金の疑惑が未解決のまま、3100億円の公的資金が投入された。さらに13の朝銀信用組合が破綻し、合計1兆円もの血税が投入される気配で、国会でも問題になっている。
■8.ハイテク部品の70%は日本製■
北朝鮮でミサイルのハイテク部品の購入を担当していた金秀幸(キムスヘン)が、韓国に亡命して語った所では、北朝鮮の弾道ミサイルに使用されているハイテク部品の「70%は日本のもの」だという。
99年2月22日、参議院予算委員会の総括質問で鴻池祥肇参議員議員は、政府に次のように質した。
ICチップは三菱電機、日立、日本電気、大手電機メーカーから部品をすべて購入した。特殊金属分析装置は清水工業、センサー関係は京セラから購入した。ノドンもテポドンも北朝鮮のものは電気と水だけであると豪語しているようです。こういったことを把握しておられますか?
警察庁警備局長は、そのような報道は承知しており、北朝鮮への物資、技術等の不正な輸出に重大な関心を有している、と答えた。ちなみに、パキスタンのミサイル実験でも、北朝鮮を通じて、日本製部品が大量に使われた。これがインドとの核実験競争の引き金になった。
同じく韓国に亡命した林永宣・元北朝鮮軍事建設局中尉の証言では、建設工事に使う重量車も、80%は日産、日野、いすずなどの日本製であり、部品が故障すれば、その写真と部品番号をFAXで朝鮮総連に連絡すれば、1ヶ月で定期船・万景峰号に乗せて届けられるという。
■9.チェンバレンとペイラントの責任は?■
「ペイラントの自由」という言葉がある。ペイラントはオランダ商人で同胞がスペインに対して独立戦争を戦っているのに、「商売は自由」と主張して、敵国スペインに大量の武器弾薬を売って大儲けした。
上記の日本メーカーが北朝鮮と知りつつ、ハイテク部品や車両を売っているわけではないが、国全体としては、核ミサイルで恫喝している相手に、わざわざその資金を与え、部品を買わせているということになる。
金正日政権という狂犬は、「現代のチェンバレン」クリントン政権によって国際社会の目から隠されている間に、「現代のペイラント」日本が餌を与えて育ててしまった。国際社会に対して、その責任はどうとるのか?
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