中国にまたまた強硬な民族主義的攘夷過激派が登場。中国には官営のシンクタンクが圧倒的だが、民間のシンクタンクも私企業相手のレポート作成で細々と食いつなぐところがある。
優秀な人材は日米欧の大学や金融機関、シンクタンクに流れた。
とくに日本で“活躍する”北京系の学者のなかに、「中国は日本なしでも生きていけるが、日本は中国なしでは生きて行かれまい」と中華思想丸出しのご託宣をのべる手合いが、リーマンショックで株暴落が始まる前まで大勢いた。
事態は急転し、かれらは沈黙した。
輸出産業の対米依存で食いつないできた中国が、明日にも倒産しそうな雲行き。失業は公式に二千万人、実態はおそらくその五倍以上だろう。
こんな折に不思議や不思議、中国は海外企業の買収、石油ガス鉱区の買収に熱心。米国債権も売り払うそぶりはない。
中華ナショナリストの経済学者や論客らは、いったいこの事態を打開するに、どんな主張をしているのか?
その回答のひとつが最近翻訳の出た、仲大軍『中国は世界恐慌にどこまで耐えられるか』(草思社)である。読んでみてやはり案の定の感想だった。
著者の仲大軍は中華思想の持ち主、民間シンクタンクでも中国の経済ナショナリストの典型と考えられる。したがって政府への批判は経済政策批判のみである。
中国の外貨準備は一兆9500億ドルだが、このうち一兆二千億ドルを中国が米国債、株式、社債などに投じたのは「アメリカによる拉致だ」と逆の論理を張るのだ。基本的に論理矛盾であろう。
▲反米過激攘夷の根底に流れる中華主義の落とし穴
第一に中国は貯まる一方だった外貨準備を「有効に投資・運用する」ために米国債権を買い続けた。これは自主的判断であり、拉致ではなく、ましてや米国からの強制も無かった。
第二に中国はそれでも有り余る外貨を運用するため二千億ドルを外貨準備から取り崩してCIC(中国投資公司)を設立した。これも中国政府高官の判断であり、欧米マネージャーは内部の決定に関与していない。ブラックストーンなどへの投資の失敗は、自らの見込み外れでしかなく、責任はアメリカにはない。
第三に外貨準備が急増したのは輸出好調によるものだが、裏で人民元の為替レートを安く維持するため猛烈にドルを買った結果である。2002年から三年間、日本が円を支えるために猛烈に為替市場に介入、合計43兆円がドルの買い支えに使われたように中国も為替市場への介入により、実態貿易をはるかに上回るドルが蓄積されたのだ。
だが、仲大軍は続ける。「災難が(米国ウォール街に)突如やってきた時、アメリカは『もし貴国が助けてくれなかったら我々は共倒れになる』と言うだろう。これこそアメリカが中国を『拉致した』という真の意味」、「投入した(中国の)巨額の外貨準備(ドル債権)は回収できなくなる。
もしも、アメリカの市場救済に参加すれば、肉団子をなげて狗を追い払うようなもので、新たに投入したお金がもどってくるかどうか」。
だから「アメリカ企業の株主権を交換せよ」。それで「中国の海外資産を保全できる」という。すなわち中国は米国企業を片っ端から買収せよ、という過激攘夷主義がでてくるのである。
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3141 経済危機に発言する強硬ナショナリスト 宮崎正弘

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