中華愛国のパラノイア節、ふたたび中国の若者を捉えるか?注目の『中国不高興』(中国は不愉快です)がベストセラーに・・・。
最近、中国ではナショナリズムを過度に鼓舞する書籍が売れている。
とくに世界的金融危機に直面して以後は、米国と対決しない、米国債を購入しつつける中国政府への間接的非難を背景に、ダライラマ法王と会った、サルコジ仏大統領への痛罵を通して、中国の団結を訴える、きわめて歪んだ発想が基礎にある。
その代表格は『中国不高興』(中国は不愉快です)と、ズバリのタイトル、大中華思想に乗っ取って、世界に覇をとなえるパラノイアが発想の基盤となっている。
この動きをいち早く伝えた産経北京総局長の伊藤正氏はこう書いた。
「執筆グループはこうした米中協調に不満を隠さない。彼らは米国同様、中国にも巨大な格差、不公平を生んだ新自由主義経済を非難し、中国人民の血と汗で稼いだ外貨を搾り取られ続けることは我慢できないとする。その上で金融危機は必ず戦争を招くとして、軍事力の強化を提言もしている」(産経、3月24日付け)。
いつか小紙でも紹介した仲大軍の新作も金融危機をバネに、中国の外貨政策を批判し、中国が米国債を買っている現実を『アメリカによって中国の財宝が拉致された』というあべこべの論理をたてた。
あの錯誤に似た中華思想の倒錯が起きている。
これを「ネオ・レフト」と欧米のジャーナリズムが規定しはじめ、警戒警報をならずメディアが増えた。米国がネオレフトと呼ぶのは『ネオコン』批判と同根。この場合は、転向をともなう修正主義の意味合いが米国では含む。
さて、『中国は不愉快です』の著者らはいったい何を言っているのか?たまたま手元にある「東亜日報」(3月20日付け)の報道から引用すると、
「西欧の一部国家が、チベット問題を中国に不利に報道するなど中国を「挑発」し、独立分子をけしかけて、流血暴力事態が発生するように仕向けていると主張した。 昨年の北京五輪の聖火リレーで、チベット問題を取り上げて聖火リレーを妨害したことも、中国国民を非常に不快にさせたと強調した。著者らは、「このことで、西欧国家は、中国の若者との関係に傷がついた。これは中国にも不利だが、 西欧にはもっと不利なことだ」と警告した。
中国が追求すべき指導的国家とは、少なくとも現在の米国の姿ではなく、米国に対しては「よく食べるが怠惰で、無責任で、世界を経済危機に追い込んだ国」と猛非難した。 同書が出版され、「中国が今後進むべき世界指導のビジョンを提示した」と肯定的な評価もあるが、一部では「一部の極左派の意見であり、中国全体の人民の意思を代弁していない」という批判も出ていると『文匯報』(09年3月19日付け)は伝えた」(『東亜日報』、3月20日)
どうやら「ナショナリト」と呼称される一群の現状不満派は、ならば共産主義原理に帰れと主張しているのかといえば、そうでもない。北京五輪以後、盛り上がったかに見えた中華愛国のムードが世界金融危機に直面して、掻き消え、中国経済が泥沼の不況に陥ったことから、角度の異なる『中華愛国』の旗振りが出てきたと言える。
執筆者のひとり宋暁軍は、十数年前に世界的ベストセラーとなった『ノーと言える中国』の共著者でもあり、出版ジャーナリストの独特の臭覚から『マーケット』を、その主張に捉えた商業センスもあるようだ、と指摘するのは「ISNニュース」だ(09年4月16日号)。
「かれらは自身が『ネオ・レフト』とも『ナショナリスト』とも認識していないだろう。かれらは共通に『愛国者』と自己規定しており、政治的にはどの派閥に属するのか不明だ」と専門家のベーント・バーガーは言う(ハンブルグ大学研究員)。
政治的組織的動きではなく、レトリックの世界を中華思想の現代版がうろついている
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