3193 巨大格差が生む大衆の不満 古沢襄

三月二十四日のことになるが、中国ウオッチャーの伊藤正氏(産経新聞中国総局長)が「中国は不機嫌だ」のコラムを書いている。蜜月ともいうべき米中接近と協調ムードの中で中国の識者と大衆の間に不満が鬱積しているという。
最近、出版された「中国不高興(中国は不機嫌だ)」の書はネット世代から支持され、民族主義的が高まっているそうだ。
「彼らは米国同様、中国にも巨大な格差、不公平を生んだ新自由主義経済を非難し、中国人民の血と汗で稼いだ外貨を搾り取られ続けることは我慢できないとする。その上で金融危機は必ず戦争を招くとして、軍事力の強化を提言もしている」。
一部の富裕階級が台頭している中国の内部で、取り残された大多数の大衆が巨大格差に不満を持ち、偏狭なナショナリズムに走る図式は分かる様な気がする。ナショナリズムの矛先が日本に向けられるのはご免願いたい。
<1996年に中国の若手ジャーナリストら5人が著した『中国可以説不(ノーと言える中国)』は、その強烈な欧米批判が「新民族主義の台頭」としてセンセーションを巻き起こした。それから13年、この3月に出版された『中国不高興(中国は不機嫌だ)』が新たな話題を呼んでいる。
既に欧米メディアも『ノーと言える』の続編と紹介し、「剣を手に商売をすることこそ大国勃興(ぼっこう)の勝利への道」「条件ができれば西側と決裂するのも選択肢」などといった民族主義的主張に警戒心を表した。『不機嫌だ』も5人の共著で、編集者の宋強氏は両書に執筆しているが、両書の間には大きな違いがある。13年間に中国は強大化し、中国人の対外意識を大きく変えたからだ。
『ノーと言える』が出版された当時、中国はようやく天安門事件(89年)の後遺症から脱し、成長路線が軌道に乗って間もなかった。時の江沢民政権は西側との協調路線をとる一方、共産党への求心力を回復するため愛国主義教育を強化したが、95年夏、李登輝台湾総統(当時)の訪米問題で米国との関係が緊張した。
96年春の台湾総統選を前に、中国は台湾周辺海域にミサイルを発射して威嚇したものの、米第7艦隊が出動し、妥協を強いられる。これを屈辱と反発したのが『ノーと言える』の背景の一つだったといわれている。
その後も、駐ユーゴスラビア中国大使館への米ミサイル誤射事件(99年)や米中軍用機衝突事件(2001年)などが発生したが、協調関係に利益を求める米中の基本路線に影響しなかった。そして、中国は経済発展を遂げ、最大の対米債権国になった。
クリントン米国務長官は、中国との関係を「同舟共済」(同じ船に乗り助け合う)と呼んだが、2月に訪中した長官に温家宝中国首相は、「携手共進」(岸に着いた後も手をつなぐ)と呼びかけ、戦略的対話の拡大で一致した。
『不機嫌だ』の執筆グループはこうした米中協調に不満を隠さない。彼らは米国同様、中国にも巨大な格差、不公平を生んだ新自由主義経済を非難し、中国人民の血と汗で稼いだ外貨を搾り取られ続けることは我慢できないとする。その上で金融危機は必ず戦争を招くとして、軍事力の強化を提言もしている。
執筆者の一人は、昨年の北京五輪聖火リレー妨害が執筆の動機と話す。チベット問題などで「西側の悪意ある行為」を受けても、中国は西側との協調を保ち続ける必要があるか、というのだ。
中国人民大学の時殷弘教授は、同書について中国紙「国際先駆導報」の取材に「具体的提言を欠く左派の特徴。左派の主張を打破し改革・開放を堅持してきたが、右寄りすぎる部分があり、西側主流への信仰や幻想を反省すべき点もある」と述べている。
中国では金融危機後、左派の主張が一段と優勢になった。19日付の「光明日報」紙で中国社会科学院の李慎明・副院長は、米国の直接民主制の欠陥や矛盾を詳述、西側の民主制度に普遍性はないと断じた。西側制度導入を否定する党の路線に沿ったものだが、中国の政治改革には言及していない。
『不機嫌だ』書にネット世代は支持が絶対多数で、毛沢東賛美も少なくない。民族主義傾向が高まる中で、胡錦濤政権は国際協調による改革・開放は維持しつつ、政治改革により慎重になったようだ。(産経)>
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