3199 総選挙後に「大連立」再燃の可能性 花岡信昭

衆院解散・総選挙の時期が政局の最大の焦点だが、ここへきて、総選挙の結果次第では「大連立」が再燃する可能性があるという見方が浮上してきた。2007年11月に当時の福田康夫首相と民主党の小沢一郎代表との間でいったんは合意した大連立構想だが、そのときは大方のメディアが反発した。だが、その後の世論調査などを見ると、国民の間に大連立への抵抗感は薄れてきている。
今月10日、東京の帝国ホテルで内外情勢調査会(時事通信系)による中曽根康弘元首相と渡辺恒雄読売新聞グループ会長の公開討論会が行われた。大連立構想に深くかかわったとされる両氏だが、この場でも、中曽根氏は「挙国的な連立政権ができる可能性がある」と言明、渡辺氏もこれに呼応した。
実は自民党内部にも大連立への期待感は続いていた。それは、仮に総選挙で勝ったとしても与党3分の2という現勢力の維持は困難であるという認識に基づく。衆参ねじれ構造は依然として続くわけで、それも、衆院で再可決が可能な3分の2ラインを割り込むとなれば、「現在よりも国会運営は厳しくなる」(自民党幹部)。
このため、次期総選挙で与党過半数を維持し、麻生政権延命となった場合でも、来年の参院選は衆参ダブル選挙となると予想する向きもある。
ダブル選挙は過去2回行われているが、いずれも自民党が勝っている。両選挙の相乗効果によって保守票の掘り起こしが徹底するためと見られた。ダブル選挙とするのは、衆院でさらに安定勢力を確保することと、参院でできるだけ勝ってねじれ解消を早めたいという思惑による。
*追い込まれる民主党
福田政権はこの衆参ねじれによって国会運営に行き詰まり、1年間の短命に終わった。麻生首相はその轍は踏むまいと、国会運営の軸として、参院で法案がたなざらしにされても衆院再可決が可能になる「60日規定」をフルに活用するという作戦を採用した。
通常国会の召集を例年よりも20日以上早い1月5日としたのも、「60日規定」を考えて国会運営に余裕をもたせようとしたものだ。その策がずばりと当たって、08年度第2次補正予算、09年度予算の年度内成立を果たし、さらに09年度補正予算を打ち出すに至った。
通常国会で3本の予算を成立させようという離れ技は、関連法案審議に「60日規定」を当初から織り込んだ国会運営によって可能になった。民主党など野党としては、いかに参院で抵抗しようと、60日たてば衆院再可決が可能になるため、審議拒否戦術が使えない。国会空転への国民の目が一段と厳しくなっていることも作用している。
 
このため、民主党は、衆院では与党の強行採決を許し、参院では60日を待たずに否決して衆院再可決を認めるという対応を取らざるを得ず、事実上、予算成立に「協力」するかたちとなった。
 
麻生政権の支持率急落などによって、一時は「総選挙で民主圧勝は確定的」とも見られていたのだが、「西松献金」事件で政局の構図は一変した。千葉、秋田両県知事選は自民党系候補が勝ち、麻生首相の支持率は30%台を回復した(NHK世論調査)。
 
もっとも、民主党の支持が一時的に高まったのは、麻生首相の政策のブレや高級ホテルのバー通い、漢字が読めないなどといった「相手のエラー」によるもので、「敵失頼み・風まかせ」の民主党の体質に基本的変化はない、と見ることも可能だった。
 
こうした状況から、一時は民主党の獲得議席を「280」などと予想したメディアもあったのだが、現時点ではそうした強気の読みはすっかり消えた。
*予想される自民党と民主党の拮抗
今後、民主党が党勢を立て直していったとしても、自公過半数を覆すのは難しいのではないか。衆院の総定数は480だが、このうち、自民、民主両党以外の政党や無所属で50-60議席程度になると見られる。
残りの420-430議席を自民、民主両党が争う構図で、民主党はどう踏ん張っても「五分」に持ち込むのがやっとではないかといった見方が強まっている。
 
具体的には自民も民主も210議席程度で拮抗するという構図だ。過半数は241だから、公明党が30議席程度を獲得すれば、保守系無所属を加えて、自公与党はかろうじて過半数に達する計算になる。
 
ではあっても、そうした勝ち方では、その後の国会運営はまったくメドがたたなくなる。3分の2の再可決可能ラインを割り込んでしまうと、「60日規定」も使えなくなり、法案はことごとく参院でストップする。自公与党としては、大幅に妥協することで法案成立を図るといった綱渡りの国会運営を強いられることになる。
 
また、仮に自公与党も民主党も過半数に達しなかった場合、相手に手を突っ込んで一定数を引きずり出そうとする「再編」劇が展開される可能性が強い。反麻生の立場を崩さず、所属する町村派のパーティーにも欠席した中川秀直氏が新党を結成して民主党との連立を図ろうとすることもあり得ない展開ではない。その場合、「中川政権」が誕生する可能性すら出てくる。
 
大連立構想の再浮上は、そうした状況への懸念を踏まえたものでもある。熾烈な多数派工作が水面下で展開されるようなら、自民、民主両党で大連立政権をつくってしまおうというものだ。公明党はその場合、与党の立場を維持するため、ついてこざるを得なくなるだろう。
*小沢氏続投は大連立への布石か
小沢氏が公設第1秘書の逮捕・起訴という事態にもかかわらず、代表辞任を先送りしている背景からも、大連立のにおいが漂ってくる。小沢氏が代表の座に固執しているのは、東京地検の捜査が終結していないことが理由のひとつと見られている。代表辞任となれば、東京地検は小沢氏を直撃しやすくなる。
 
もうひとつの理由は、政治力を残して事実上の「院政」を敷くための時間稼ぎだ。代表辞任のショックを和らげ、選対本部長などのポストに就くためには世間が許容してくれるだけの時間が必要という判断が働いている。
 
さらに小沢氏の代表続投の背景として、大連立再燃に備えたものという隠された見方もある。一昨年の大連立構想は、小沢氏の側から持ち込まれたと福田氏らは言明している。当時、民主党内には大連立支持派はほとんどいなかったのだから、今回、総選挙の結果によって大連立再燃となっても、民主党側には小沢氏以外に自民党側との折衝窓口がない。
*国民的課題解決のために有効な大連立
一方で、自民党内にはこういう見方もある。仮に民主党政権誕生となった場合、社民党、共産党の影響力の濃い政権となる可能性がある。民主党は、社民党とは選挙協力を結んでいる。共産党は候補擁立を絞り込む作戦に転じたため、候補のいない選挙区では共産支持票のかなりの部分が民主党候補に上乗せされる可能性がある。このことは過去の選挙データとの比較やメディアの出口調査などによって、おのずと表面化していくだろう。
 
自民党幹部の1人は「民主党が勝てば、社民党、国民新党などとの連立政権となるだろう。共産党は天皇を認めていないから、認証式が必要な閣僚を出すようなことにはならない。しかし、実態としては閣外協力に近くなる」と予測する。
 
北朝鮮のテポドン発射に抗議する国会決議をめぐり、共産党は反対、社民党は棄権した。安保・外交政策の基本路線がまったく違う社民、共産両党に左右されるような政権ができるような事態を回避するには、両党を除外した大連立しかない、というのである。
 
中曽根氏は前述の討論会で、大連立のねらいについて、「憲法改正の準備もしなくてはならない」と発言している。大連立の効用としては、年金、消費税、自衛隊の海外派遣などの厄介な懸案を決着させることができるといった点があげられる。
消費税はいずれ大幅引き上げが必至という見方が大勢なのだが、民主党も基本的にはその立場に立っているとしても、野党として選挙に臨むうえでは増税は言い出せない。ドイツの大連立も消費税の引き上げを可能にした。憲法改正についても、社民、共産両党以外は、同じ土俵に乗ることが可能だ。
 
そうした状況を踏まえると、今後の国家像をかたちづくっていくためにも、大連立は有効なシステムといえるのではないか。「100年に1度」の経済危機に対応するという国家的課題を最大の大義として、総選挙後、一気に大連立へ突っ走る可能性を予測しておく必要がある。
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