3253 米国の国防策変容耐えがたし  櫻井よしこ

「米国の対中国政策は、非現実的な愛他主義に陥る可能性がある。米国は中国と本質的なかかわり合いを持っていないから、そういうこともできる。しかし、それは日米にとって耐えがたい状況をつくり出す」
1920年代から30年代にかけての米国のアジア政策について、当時、米国の中国問題専門家の1人だったジョン・マクマリーが書いた言葉だ。米国のオバマ政権の中国政策は、当時に比べてよりいっそう「非現実的」になりつつある。
「愛他的」なのか、米国の利益優先なのか、信念に忠実だからか。理由はおそらく重なっているのだが、中国への傾斜が著しい。
国防総省は3月25日、「中国の軍事力」に関する年次報告を発表、中国が戦略核戦力をはじめとする軍事能力を高め、台湾攻撃能力も大幅に増強されたと警告した。
同報告書に先駆けて、米国防大学のバーナード・コール教授も、過去21年間、2ケタの伸び率を続ける「中国軍の展開が、米国とその同盟国の国益と衝突しかねない」と警告した。
しかし、オバマ政権の国防政策には、国防総省の分析などはまったく反映されていない。オバマ大統領は4月5日、プラハで核廃絶を目指すと演説し、翌日、ゲーツ国防長官は米軍を基本的に改編すると発表した。
中露を潜在敵としてきた従来の方針を、テロリスト勢力など、非従来型の脅威制圧を念頭に置いた編成に切り替えるという。
最新鋭のステルス型戦闘機F22の生産を中止し、ミサイル防衛網計画への予算を削減する。中国の軍事力の脅威に直面する日本にはF22を売却せず、台湾が望んでいたディーゼル推進の最新鋭潜水艦も生産を中止するそうだ。
これでは、「日本にとって耐えがたい状況」が生まれた20年代のように、再び日本、そして、台湾にとって、耐えがたい状況が生ずるのではないか。
だが、米国には多様な意見が存在し、かつてのマクマリーのように、過度な対中偏向を戒める人がいる。彼らは単に中国を批判するのではなく、日本が心して耳を傾けなければならない点をも指摘する。
「中国の海軍力が弱かった時代に(米欧諸国によって)つくられた海上戦力のルールを北京は是としない」「しかし、彼らは歴史から学び、あからさまに挑戦を突きつけることはしない。中国は平和的に台頭するというのである」
こう書いたのは、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)のブルメンソール研究員だ。氏は続けた。
「しかし、力をつけた中国が国際社会のルールに従うわけではない」
具体例として氏は、南シナ海の公海上で調査をしていた米国海軍の測量調査船への激しい妨害工作を挙げる。調査船のインベカブルが海南島沖の公海上で行なった調査活動を阻止するために中国海軍は大量の丸太を海に投げ込んだという。
調査船は幾本もの長いロープを曳航しながら調査するが、そのロープを丸太で切断したり、絡ませたりしようとしたわけだ。海南島には原子力潜水艦の新しい基地があり、中国は、たとえ公海といえども、米国海軍をこの海に近づけたくなかったのだ。
日本周辺の公海のみならず、排他的経済水域や領海にまで侵入し、居座り続ける中国は、立場が逆になったとき、相手国にそのような行為は許さない。
AEIのオースリン研究員は、アジアにおける米国の支柱は日本であると指摘する。しかし、その日本は、年ごとに力を弱め、内向きに、かつ、二流国になり下がりつつあるという。米国が当てにしたくとも日本を当てにできず、その支持を失うとき、世界は日本という国ののどかさにようやく気づくというのだ。
中国への偏りを批判する人びとの目にも、日本の凋落ぶりは激しい。だからこそ、私たちは今足元を固めなければならない。(週刊ダイヤモンド)
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