3294 北朝鮮の「麻薬王」が摘発される 古沢襄

韓国の朝鮮日報が「北朝鮮の麻薬王・キム・ソンフン氏とは」という記事を書いている。麻薬の密輸で莫大な「忠誠資金」を稼ぎ、軍や党の幹部に献上していた人物だが、昨年八月に北朝鮮史上最大の「麻薬スキャンダル」が発覚して逮捕・収監されている。
この事件に北朝鮮人民軍の将官や朝鮮労働党の幹部数十人が関与したといわれ、平壌は一時、大騒ぎになったという。しかし、事件を摘発した保衛司令部はキム・ソンフン氏個人の問題として処理して、金正日総書記に報告するにとどめた。
「クーデターが起きるほどの大きな波紋が予想されたためだ」というのがその理由だったという。
<昨年6月のある日、平壌では金正日(キム・ジョンイル)総書記(67)が出席する予定だった「金正日党事業開始44周年記念中央報告大会」を前に、厳戒態勢が敷かれていた。金総書記が出席する「1号行事」であるだけに、保衛司令部の係員らが動員され、出席者たちの所持品を検査するとともに、たばこやライターなどは回収して保管した。
外貨稼ぎを担当する朝鮮人民軍直属の「錦繍合作貿易総会社」のキム・ソンフン代表も例外ではなく、所持品を係員に預けた。特殊部隊の将官だったキム代表は、韓国にも十数回侵入し、「共和国英雄」の称号を授与された軍の実力者で、「ソンフン翁」と呼ばれ親しまれていた。
そのキム代表からたばこを預かった保衛部の係員は、たばこ1本を密かに抜き取り、深々と一服していたが、間もなく意識を失い、病院に運ばれる途中死亡した。
平壌は大騒ぎとなった。金総書記は行事への出席を取りやめ、キム・ウォンフン保衛司令官(大将)が直接調査に乗り出した。係員の死因は「麻薬の大量摂取」という意外なものだった。
人民軍の将官や朝鮮労働党の幹部数十人が関与した、北朝鮮史上最大の「麻薬スキャンダル」が発覚した瞬間だった。北朝鮮情勢に詳しい複数の消息筋は29日、「最近北朝鮮を脱出した保衛司令部の元幹部A氏の証言で、こうした事実が確認された」と話した。
保衛司令部は間もなく、キム・ソンフン氏を逮捕・収監した。麻薬中毒の状態にあったキム・ソンフン氏は、禁断症状に耐えられず、「すべてお話する」と言って供述を始めた。
そして「麻薬を仕込んだ特殊なたばこを密かに製造し、軍の将官や党の幹部数十人に献上した」と自白した。また、定期的に巨額のわいろを提供していたことも供述した。
キム・ソンフン氏の自宅からは、120万米ドル(約1億1700万円)や1億円の外貨を含むわいろや、麻薬入りのたばこを受け取った高級幹部のリストが見つかった。このリストには、第11期最高人民会議のムン・ハクチュン代議員(国会議員に相当)などの名前が記載されていた。
北朝鮮情勢に詳しい消息筋は「キム・ソンフン氏は麻薬を中国などに密売し、莫大(ばくだい)な“忠誠資金”を稼いでいた。あまりにも手の込んだやり方で、将官たちも簡単に手を出せないほどの、北朝鮮の“麻薬王”だった」と話した。だが、保衛司令部は事件を、キム・ソンフン氏個人の問題として金総書記に報告するにとどめた。「クーデターが起きるほどの大きな波紋が予想されたためだ(消息筋)」というのがその理由だった。
治安政策研究所のユ・ドンヨル研究員は「北朝鮮は1980年代末、東欧諸国で共産政権が崩壊して以降、外貨獲得のために政府レベルで麻薬を生産してきた。金総書記は92年、麻薬の生産を“白キキョウ事業”と名付け奨励していた」と述べた。北朝鮮の権力機関は、麻薬の密輸により、年間1億ドル(約97億5600万円)もの収入を得ていたとみられる。
北朝鮮情勢に詳しい消息筋は「北朝鮮の麻薬生産は20年以上にわたって行われており、軍部や党の幹部にまで麻薬中毒が広まっているとみられる。だが、こうした事実は最高指導者にも隠さなければいけないのが北朝鮮の現実だ」と話している。(朝鮮日報)>
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