豚インフルエンザは未だ予断を許さない、憂慮すべき状況であります。しかし、私たちにとっての本当の脅威は、 H5N1型などの鳥インフルエンザに代表される、強毒性の新型インフルエンザであります。
私はあえて今の状況をポジティブに捉えるべきと考えております。後難を恐れずに申し上げれば、むしろ「僥倖」でさえあります。
今回、残念ながら封じ込めに失敗してしまった豚インフルエンザは、私たちに新型インフルエンザについての認識を改めさせる非常に良い機会であると共に、事後には「きわめて質の高い良い予行演習であった。」として振り返る機会を与えてくれたと考えられるからです。
何の因果か、曾祖父が軍医として脚気の対応に追われていたのと同じ年齢で、私は勤務先で新型インフルエンザ防護用品関連の業務に携わることとなってしまいました。
そこで、私がインフルエンザ防護用品関連業務の中で学んだ問題点、対策を出来る限り簡単にまとめてみようと思います。
最悪の事態を回避するための対策
では、これらを正しく理解し、運用するために危機管理の基本を簡単にまとめると次のようになると思います。
① 最悪を想定する。
② 過剰と思われるくらいの対応をとる。
③ 拙速と言われるくらい速く対応(最適でなくも良い)する。
脅威の正体が特定出来ない危機的状況下では、「最悪ではなかった」「ちょっとやり過ぎだった」「拙速だった」などは事後に評定される問題であります。新型インフルエンザに限らず、危機的状況下では判断基準を変えなければなりません。
新型インフルエンザ対策は私たちにとって生存を懸けた戦いであり、まさに危機管理でありますが、次のような平時の判断基準が、現場で担当者が迅速・効果的な対策を妨げる障害となっています。
豚インフルエンザの「最悪」はどのような可能性によって起きるのでしょうか?
A)弱毒性であっても毒性が高まる可能性。
※スペイン風邪も流行初期は毒性がきわめて低いものであった。また、最新情報によれば、解析された豚インフルエンザウィルスの遺伝子配列は一カ所が変化してしまうだけで毒性の高いウィルスに変化してしまうものであることが報告されている。
B)毒性の低いウィルスは致死性が低いので感染者が移動可能であり、感染地域急速に拡大する可能性。(もう起きてしまいましたが)
C)現在有効とされている治療薬(タミフル・リレンザ等)にウィルスが耐性を持つ可能性。
D)抵抗力が高い故に多くの若年者が重篤化(死亡)する可能性。(スペイン風邪では死者は若年者に多かった。)
最後に、早急に改善する必要がある、新型インフルエンザ対策を囲む問題点を下記にあげます。
イ)マスクについて
N95は防護性が高いが完全にウィルスを遮断する訳ではない。また、防護性が高いと言うことは当然「息苦しい」のであり、長時間使用する者のために排気弁を設け、呼吸を楽にする処置がとられいるタイプのものもある。ニュース映像で流れる、検疫官、研究者などは大抵排気弁付きタイプを使用していることからも専門家からの信頼がわかる。
「N」は非オイルを表し、「95」は0.075μの微粒子を95%以上の捕集率を表す。インフルエンザウィルスの大きさは約0.1μ、通常0.3μ程度の塊になっている。 インフルエンザ用マスクと言われているものによく見られる「N95」とは、本来アスベストなどの粉塵用マスクとして開発されたものである。
中国で発生したSARSの時にN95を流用したところ、有効性が確認された。N95という基準自体、アメリカの基準であるが今日では世界的なデファクトスタンダードとして認識されている。
ロ)ワクチン、抗インフルエンザウィルス薬の備蓄量は充分か? 最も投与が必要な者が真っ先にリストから外されている。 スペイン風邪の例でも若年者は抵抗力も強いため、自らの抵抗力が自らの身体を攻撃してしまい、重篤化する可能性が高い。
ワクチン、抗インフルエンザウィルス薬は社会機能を維持するために不可欠な人員へ優先的に投与されるので、その数量は2千万~3千万人分とも言われている。
当然、国民全員に支給できるものではない。 しかし、社会機能を維持するために不可欠な若年者など存在する訳が無く、若年者は対象にされない。「自分の子供は自分でなんとかしろ!」とも受け取れる、お役人的な国民無視の発想と言われている。
ハ)湿度と気温が上がる夏季にはインフルエンザの脅威が無くなる? 飛沫感染の問題は依然として存在するので、暖かくなっても安心できるわけではない。湿度が上がるとウィルスが吸湿し重くなり、ウィルスが空気中に浮遊しにくくなるので、空気感染は「起きにくく」なるだけである。
ニ)インフルエンザは空気感染しない? 閉所においては空気感染がおきえる。「感染者が空気中に放出し、浮遊している乾燥状態のインフルエンザウィルスは9~10時間ほど生きている。」と言われている。
ホ)欲しいものは手に入らない。 防護用品の性能検査と供給業者への公的補助などの支援策を検討する必要がある。 マスクなどのインフルエンザ防護用品は国民が自助努力で備蓄するのであるが、実際は供給業者の在庫に頼っているのが実態である。当然、売れないかもしれない在庫は供給業者にとって大変リスクが高いものになる。その結果、供給業者がとる政策は次のようなものになる。
I.在庫を持たない。
II.利益率を著しく高く設定する。(≒粗悪な安物を高く売る)
どちらにしても必要な時に必要なものが手に入らないのである。
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