3313 「利権社会主義」脱却こそ日本復活の道② 伊勢雅臣

■5.アメリカの1.5倍の一人当たりセメント消費量■
こうした公共建設投資の異常な増加ぶりは、国民一人当たりのセメント消費量で見ると、歴然としている。
昭和30(1955)年~34(1960)年の一人当たりセメント消費量は100kg以下であり、アメリカやドイツの3分の1の水準であった。
高度成長とともに、セメント消費量は伸びて、昭和35(1960)年~39(1965)年には300kg水準でドイツに追いつき、昭和45(1970)~49(1974)年の期間には600kgに達し、ついにアメリカに追いついた。
昭和48(1973)年は、田中角栄が総理大臣となって作成した初めての予算年度で、公共事業費を急増させ、歳出規模で約25パーセント増という超積極予算にしている。
アメリカの消費量はその後減少を続けて、1985(昭和60)年以降は400kgから450kgという水準に落ちるが、日本は600kgのまま高止まりとなっている。国土の狭小な日本でアメリカよりも1.5倍ものセメントが長年、消費され続けたのである。
その結果、もともと豊かで美しい我が国土のあちこちが、殺風景なコンクリートの道路や箱物、堤防で覆われてしまった。
ちなみに官公需建設だけで国内総生産(GDP)の7、8パーセントを占めてきたのは、先進諸国では例のない現象である。これはほとんどの先進国の民需官需を含めた建設投資総額よりも大きい。
■6.世界の建設業者の4社に1社は日本企業■
実需を無視した公共投資の増額とともに、角栄はそれを広範囲にばらまく仕掛けを残した。昭和41(1966)年に制定された官公需法だ。「官公庁の物品購入や工事発注は、一定比率を中小企業に向けなければならない」とする。
官公需法によって、コスト競争力を持つ大企業一社に発注すれば安くつく工事を、わざわざ細切れにして中小企業に発注することが常態化した。平成11(1999)年の官公庁建設投資総額は約35兆円で、少なくともこの半分以上が非効率な中小企業に発注されたようだ。
一説に、中小企業に発注することで、発注総額の2割ものコストアップになるという。とするなら、少なくとも35兆円の半分が中小企業に発注され、その2割、すなわち3.5兆円の税金が、官公需法によって浪費されたと推定される。
この結果、昭和35(1960)年には約7万4千社に過ぎなかった日本の建設業者数が官公需法導入以来急増して、平成12(2000)年には60万社にまで膨れあがった。今や世界の建設業者の4社に1社は日本企業だと言われる。
こうした非効率性は経済統計にもはっきり表れている。日本の労働生産性を産業分野別に比べてみると、昭和50(1975)年を1とした場合、平成12(2000)年には製造業も卸小売り飲食店も2.5、金融不動産業で1.9と大幅に伸びているのに、建設業だけは0.9とかえって低下している。
25年の間に、建設業界においても建設機械やコンピュータの飛躍的な進歩があったはずなのに、労働生産性がかえって低下するとは、なんとしたことか。「コンピュータ付きブルドーザー」の作った官公需法の影響力である。
■7.高度成長の急停止と財政破綻■
日本が角栄流「利権社会主義」で「土建屋国家」に変身させられたことによって、二つの変化が起こった。経済成長率の劇的な低下と財政破綻である。
昭和30(1955)年から昭和50(1975)年までの日本の実質国内総生産は、平均で年間9.7パーセント伸びていた。それが昭和50(1975)年からの20年間は、3.2パーセントと3分の1の水準に落ち込んでしまう。
世間では、これは昭和47(1972)年から翌年にかけての石油ショックによって高度成長が終わったから、と信じられている。しかし、日本社会はエネルギー効率の良い鉄道への依存率が高く、また省エネ技術開発でも欧米諸国より進んでいた。この時期に多くの分野で日本製品は国際市場でのシェアを高めた。
それなのに「石油ショック以後、成長率が半分以下に低下した国は、日本以外には存在しない」(原田泰『1970年体制の終焉』)高度成長の急停止の真犯人は石油ショックではなく、「土建屋国家」化である。
第2の変化は、財政収支の悪化である。昭和49(1974)年までは9年間、国債発行はゼロを続けていた。それが突然、昭和50(1975)年から毎年3兆円から5兆円もの巨額の赤字国債が発行されるようになったのである。昭和47(1972)年に首相になった田中角栄のバラマキ財政のつけが回ってきたのだ。
田中角栄とその後継者による「利権社会主義革命」は、膨大な国富をムダな建設投資に投入して、我が国の高度成長を急停止させ、同時に国家経済を破綻させた。その裏で、一部の政治家や官僚が利権を漁るようになった。ちょうど、旧ソ連と同様の社会・経済構造が実現されたのである。
■8.「利権社会主義」と「土建屋国家」から脱却■
あまり使われない道路や箱物がいたる所に作られているのに、大都市圏では高い住宅費や通勤ラッシュで生活の豊かさは実感できない。それどころか緊急病院での医師不足で救急車がたらい回しにされたり、特別養護老人ホームへの待機者が約40万人、認可保育所への待機児童は100万人に達すると推計されている。
これらの問題は規制緩和など個別の行政課題もあるが、政府予算が真に国民生活の必要な分野に配分されていない事を示している。また教育の充実や医療、環境、エネルギーなどの技術開発も、国家の将来を築く投資として重要な分野である。
小沢一郎の秘書逮捕に見られるような、いまだにはびこる「利権社会主義」と「土建屋国家」から脱却し、真に国民生活に役立つ分野に国家の税金が使われるよう声をあげていくことが、我々の子孫のための義務である。
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