3362 破綻したガイドライン 石岡荘十

「新型インフルエンザ対策行動計画」、いわゆる「ガイドライン」については、先だってもメルマガ頂門の一針(5/15)で紹介したが、ここへきて事実上、これが現実的には何の役にも立たなかったことが明らかになってきた。
簡単に繰り返すと、ガイドラインは、新型インフルエンザの国内感染が出た第2段階(国内発生早期)から、第3段階(感染拡大期/まん延期/回復期)にかけての対策として、次のような行動計画を定めている。
・ 引き続き水際作戦を続行する
・ 住民に対し、可能な限り外出を控えるよう要請する
・ 学校や事業所などに対し、臨時休業、入学試験の延期を要請する。
・ マスクの着用、うがい。手洗いを強く勧奨する。             
医療機関に対しては、
・発熱者の海外渡航歴を確認した上で、感染指定医療機関等の受診を指示するよう、周知する。
・新型インフルエンザの患者と判断された場合には入院勧告を行う—(一部、以下省略)。
これに従って、国内感染者第1号発生が確認された兵庫県、神戸市、次いで隣接した大阪府が蔓延防止対策を進めているが、ここへきてこのガイドラインに綻びが目立ち始めている。
まず、水際対策の縮小。やっと意味がないことに気づいた水際「検疫オンリー」の替わりに、対策の重点を国内へシフトすることを、いまになって舛添大臣が明らかにしている。
そもそも、短時間で人が航空機で大陸間を行き来する時代に、潜伏期間が1週間といわれる新型インフルエンザ感染者を水際でチェック・補足するという発想自体に、理論的に無理がある。時代錯誤、素人が考えても、分かることであった。
“震源地”メキシコと長い国境線を接している米国で、水際作戦が実施されているという話は聞いたことがない。
つぎに、マスクの着用については、ほとんど無意味であることを、5/19号で紹介した。
さらに、「発熱者の海外渡航歴を確認した上で、感染指定医療機関等の受診を指示する」としているが、国内感染者と海外渡航の経験は無関係であることがすでに明らかになっている。
医療機関では、発熱外来の設備も、医師の余裕もない。その上で「入院勧告を行う」となっても、ベッドはすでにパンク状態だと現場からの悲鳴が聞こえてきている。
そこで、今度は「新型インフルエンザは毒性も弱く、普通の季節性インフルエンザと変わらないので、軽微な症状の人は、冷静に自宅で様子を見てほしい。
すぐに医療機関に駆け込まないで—」と今頃になって呼びかけ、厚労省は180度、はじめの基本方針を転換し始めている。ここまでくると、「冷静になってほしいのは、あんただろう」と言いたくなる。
水際作戦にしてもマスクの着用にしても、すでにWHOや米CDC(疾病予防管理センター)が「奇妙な対応だ」と基本的な考えを公表している日本独自の“防疫対策”だ。
「ガイドライン」は、基本的な医学的な認識を世界の常識と共有していない。最早、砂上の楼閣であり、事実上、破綻しているというべきだろう。
ところが、厚労省は決して、「間違ってました。ごめんなさい」とは言わないのである。小手先で方針を手直ししている。
日本の疫学的な危機管理制度の設計、医療予算の配分などは、遡ると、600人の厚労省医系技官が担い、今回のガイドラインドライを作文したのもまた彼らである。大臣は、口パク、彼らの作文を朗読するだけだ。
担当記者は、それをまたそのまま記事にしている。なぜこんなことになったのか。問題点を指摘した記事を筆者はまだ発見できていない。
結果論として、初歩的な勉強不足と無能で誤った防疫路線を敷いた、医系技官に責任はないのか。
日本の官僚は有能だとよく言われるが、今回の騒動で見えてきた彼らのレベルは、その評価に値しないと筆者は実感している。
医師として臨床や研究の経験もなく、ぺーパー試験だけで入省した、医療現場経験のほとんどない“専門家”と、出たがり屋の大臣が、社会に無用の混乱をもたらしている。
筆記試験だけで“専門家”になったペーパードライバーがF1レーサーに運転技術を教えているようなものだ。
ウイルスが、「おっ、ここは県外だ」と県境を意識して兵庫や大阪に引き返すわけはないから、東京はじめ主要都市で騒ぎが蔓延するのは時間の問題だ。
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