3383 「10月総選挙」の布石か 花岡信昭

政府は22日の閣議で、衆院議員の任期が満了となる9月10日に衆院を解散することは可能で、その場合には10月20日までに衆院選を実施することができるとする答弁書を決定した。
加賀谷健参院議員(民主)の質問主意書に対するもので、日曜に投開票する前提でいけば、衆院選は10月18日まで延ばすことができる。
憲法45条は、衆院議員の任期を4年とした上で、「衆院解散の場合には、その期間満了前に終了する」とも規定している。 】
「10月選挙」は永田町でささやかれている「解散先送りの奇策」だ。法的にも可能であることが、これではっきりした。
任期満了選挙の場合は、満了の前30日の間に選挙を行うことになっている。これとの整合性がもうひとつわからない。わざと不透明なままにしておこうということか。
麻生首相としては、任期満了選挙はなんとしても避けたいはずだ。解散できない政権は一気に弱体化する。かつての三木政権がそうだった。
となれば、9月10日の任期満了日の30日前、8月20日あたりに、なんらかの意思表明が必要になるということか。
解散の場合は40日以内に選挙を行うことになっている。どのくらいの日時があれば選挙準備が可能であるかについては、政治情勢もからむので、事務当局もなかなか明らかにはしない。
通常は2週間程度とされているが、もうここまでくれば1週間もあれば十分、という声もある。地方自治体も、すでにいつ総選挙があってもいいように、準備万端、ととのえているということだろう。
9月10日まで1か月という段階を過ぎても、麻生首相からなんらの意思表示がないということになれば、いわれるような「9月10日解散」が現実味を増すことになる。
民主党の鳩山新代表の人気が予想以上のものとなっているため、またぞろ解散先送り論が出てきている。その場合の根拠として「9月10日解散も可能」というのは、おもしろい話ではある。
知人の議員秘書によれば、「8月9日選挙」を念頭に準備にはいったという。通常国会を大幅に延長し、7月中下旬の解散、というシナリオだ。これが延びた場合、選挙事務所の家賃などカネはかかるものの、「8月9日」で進めていけば出遅れることはないというわけだ。
<<世論調査が裏付ける民主党人気の旧回復>>
【nikkeiBPnet連載「時評コラム」「我々の国家はどこに向かっているのか」21日更新】再掲
*麻生首相を上回る鳩山新代表の人気
「中4日」というのは、プロ野球の先発投手のローテーションとして用いられる用語だが、民主党の代表選挙がこれを使うとは思わなかった。とにかく、11日の月曜に小沢一郎氏が代表辞任を表明、土曜の16日には後継代表に鳩山由紀夫氏が選出されたのだから、政治の世界にはめったにない超スピード決着である。
それもこれも、すべては「小沢戦略」の荒業だ。おそらくは連休中に「鳩山-小沢シフト」の構図を固めたのであろう。そのうえで、岡田克也氏をつぶしにかかったわけだ。
新代表が決まって、各紙世論調査を見ると、鳩山氏の人気はすさまじいものがある。参考までに各紙の「首相にふさわしいのはいずれか」という質問に対する回答を並べてみる。
 朝日 「鳩山40% 麻生29%」
 毎日 「鳩山34% 麻生21%」
 読売 「鳩山42% 麻生32%」
 産経 「鳩山37% 麻生33%」
 日経 「鳩山29% 麻生16%」
麻生首相も背筋に冷たいものが流れたに違いない。内閣支持率そのものにはそう大きな変化はなく、読売、日経調査などは30%程度を維持している。だが、「首相にふさわしいのは鳩山氏」という結果を突きつけられて、麻生首相がおもしろかろうはずはない。調査では
「鳩山氏よりも岡田氏のほうがいい」という傾向も出ているのだから、万一、岡田氏に決まっていたら、さらに差が開いたはずだ。
調査では、次期総選挙の比例代表に投票する政党として、おしなべて民主党が自民党を上回った。朝日は自民25%に対し民主38%である。
民主党の代表交代劇は、国民には好感を持って受け止められたということになる。だが、冷静に考えると、「世論調査の怪」とでもいっていい現象を指摘しないわけにはいかない。
*小沢氏が要職に残った影響は不透明
調査が行われたのは、16-17日である。小沢氏が選挙担当の筆頭代表代行として執行部に残る新人事が発表されたのは17日の夜だ。小沢氏が居残ったことは、調査に反映されていないのである。
したがって、この調査結果は疑ってかかる必要がある。小沢氏辞任に対しては7割程度が当然だという回答を示しているのだ。それが要職に残ったのでは、有権者としてはだまされたような思いが強いのではないか。さらにいえば、鳩山氏は小沢氏を擁護しつつも「代表を支えてきた幹事長として責任を共有する」とか「一蓮托生だ」などと言明してきたはずである。
その鳩山氏が代表選に出馬すること自体、もっと論議があってしかるべきであったと思うのだが、小沢流の「早業」によって、そうした声はかき消された。そこへこうした調査結果が出れば、これはもう世間的に鳩山新体制が認知されたことになる。
小沢氏は、代表選の日程を急ぎ、党員・サポーターや次期総選挙候補者なども排除して国会議員だけの投票で行うことを強圧的に決めていった。投票結果は鳩山氏124、岡田氏95の29票差となったが、これを大差とみていいのかどうか。15人が態度を変えればひっくり返っていたはずだ。小沢氏側のすさまじい多数派工作が展開されたことは容易に想像できる。
といったようなことは、終わってしまえば、犬の遠吠えにしか聞こえなくなる。「西松献金事件」もどこかへ吹き飛んでしまった。そもそも小沢氏が代表辞任にいたったのは、これが要因だったのではなかったか。その小沢氏を代表代行に、それも選挙対策を担当する筆頭代行という処遇をしたことは、民主党が党として「西松事件」をクリア-したということにほかならない。
*民主党びいきのメディアが世論操作?
なにやら、とてつもない「錯覚」が日本中を席巻してしまったのではないか。メディアの一部がそれに加担したといったら言い過ぎか。その一例をあげる。
世論調査では「鳩山体制に期待するかどうか」という質問も設定された。朝日の調査結果では「期待する47%、期待しない43%」である。日経は「期待する47%、期待しない49%」だ。
それが両紙の見出しを見ると、朝日は<鳩山体制に期待47%>と1面に出ている。日経は<「期待」「期待せず」拮抗>である。朝日の<鳩山体制に期待47%>は、調査結果の数字をそのまま掲げたのだから、間違いではない。
だが、見出しの取り上げ方には、鳩山新体制を世間に認知させようという「民主党びいき」の体質が透けて見える。こういうのを一般には情報操作、世論誘導という。
もっとも「政治は結果がすべて」という側面を持つから、今回、小沢氏が取った政治手法を非難しても始まらない。小沢氏を抑え込むパワーが民主党には決定的に不足していたということが証明されたわけだ。岡田氏が幹事長として執行部入りしたのだから、これまた、「小沢依存体質」を容認してしまったことになる。
それにしても、政治の世界では「転換効果」がいかに大きいかをまざまざと見せつけてくれた。代表交代によって、西松事件発覚以前の政治状況に戻ってしまったともいえる。それを世論調査が裏付けている。比例代表で投票する政党として、民主党が再び自民党を上回ったのだ。各紙によって質問の仕方が若干異なるのだが、調査結果はこうなった。
 朝日  民主38%(+6ポイント)自民25%(-2ポイント)
 毎日  民主56%(+11ポイント)自民29%(-5ポイント)
 読売  民主41%(+11ポイント)自民27%(+0ポイント)
 産経  民主45%(+10ポイント)自民31%(-3ポイント)
 日経  民主15%(-3ポイント)自民13%(+8ポイント)
さあ、こうなると、麻生首相としても解散戦略の練り直しを迫られることになる。今国会は6月3日までだが、とりあえずは7月中下旬まで大幅に延長して、解散のタイミングをさぐるだろう。
*混沌としてきた解散総選挙のタイミング
西松事件の初公判が6月19日に行われるから、ここで、検察側がどこまで踏み込むかがひとつの焦点だ。メディアが書き立ててきたように、東北地方の公共事業をめぐる西松建設と小沢氏サイドの「癒着構造」や10億円以上も使ってマンションを購入していた小沢氏関連の資産形成まで描き出すのかどうか。
小沢氏が秘書逮捕から2カ月余り、代表の座に固執してきたのは、政治力温存の方策を固めるのに時間が必要だった点とともに、検察捜査の行方が不透明だったことが指摘できよう。
検察の冒頭陳述の内容いかんでは、麻生首相側も反転攻勢のきっかけをつかむことができる。民主党の代表交代劇で隠されてしまった感のある西松事件を、もう一度、政治の現場に引き出すことが可能になる。
小沢氏は今後、代表代行としての記者会見も行わない方針という。マスコミの表舞台に顔を出さず、裏側で選挙体制を指揮することになる。岡田氏も選挙対策を小沢氏にすべて取られてしまう幹事長というのでは、政治的力量を発揮できないのではないか。役割分担で齟齬が生じるのは必至だ。
麻生首相としては、鳩山新体制に対し、「小沢傀儡」批判や、財源対策が不明確なマニフェストの非現実性を強調することで、挽回をはかることになる。
新年度補正予算の自然成立は6月12日だ。関連法案の再可決は7月11日に可能となる。7月8日からイタリア・サミット、12日が東京都議選だ。両陛下が7月3日から17日までカナダ、ハワイを訪問されるから、この間の解散はまずできない。となると、解散時期は7月下旬か。
その場合、総選挙は8月9日または8月30日の線が出てくる。盆の前後は政治休戦が通例だ。8月総選挙というのは戦後1回もない。だが、想定外のことがこれだけ続くと、常識的な見方が通用しなくなることも考えておかなくてはいけない。
衆院議員の任期切れは9月10日だ。そこまで解散を延ばせば10月選挙ということもあり得る。さらに、新型インフルエンザが全国に蔓延するといった事態に至れば、超法規措置で選挙先送りという前代未聞のことが起きるかもしれない。
当面は、小沢氏が選挙担当の代表代行として執行部に残ったことを国民がどう判断しているのか、そこを確認したい。次の世論調査を待つことにしよう。
 
杜父魚ブログの全記事・索引リスト

コメント

タイトルとURLをコピーしました