国際世論に背を向けて地下核実験を強行した北朝鮮だが、ここまで野放図にさせた責任の一端には中国の曖昧な態度にある。北朝鮮に翻意を迫るといっても、軍事力を行使するわけにはいかない。経済制裁を強化することによって、国際世論の厳しさを知らしめることが、唯一の道といえる。
だが経済制裁の強化は、北朝鮮を追い込み、暴発を招くという理由だけで中国は前回の国連決議に反対した。その結果はどうか。北朝鮮は国際世論の乱れを突いて、地下核実験、ミサイル発射を繰り返し、中国が主宰する六カ国協議を有名無実化させている。
中国に同調してきたロシアは、国連安保理議長国として日米両国作成の新決議案(原案)に同調する姿勢に転じた。西側と共同歩調をとったわけである。残った中国はまだ慎重姿勢をみせている。
だが、その中国にも変化の兆しがみえる。
中国の北朝鮮政策は米帝国主義との緩衝地帯として金正日支配を容認する立場をとってきた。だが、現実的には米中はかなりの面で利害を共通する変化を生じている。不測の事態を招かないかぎり、三八度線で戦火を交え、第二次朝鮮戦争が勃発する可能性は低くなったといえる、
むしろ警戒すべきは北朝鮮の暴走である。中国の北朝鮮政策は、明らかに岐路に立っている。ただ、大胆な政策転換にまだ踏み出せないでいる。その水面下ではネットなどで「北朝鮮に振り回されるのはご免だ」「小国・北朝鮮の暴走は中国を危うくする」という議論が出ていて、中国当局は押さえ込む姿勢をとっていない。
現状は中国は”貝”になって沈黙を守っていると言ってよい。それが動き出す時に北朝鮮内部にも大きな変化が生まれると期待したい。
そうでなければ、韓国や日本に防衛的な核武装論を誘発しかねない。事実、韓国政界には韓国も核を持つ「核主権論」が台頭している。これはまた北東アジアに深刻な危機的状況を生む懸念がある。
<北朝鮮の核実験をめぐり、国際社会による制裁の成否のカギを握る中国が「沈黙」を続けている。日本政府は、国連安全保障理事会の決議内容などで中国との協調を図るため、麻生太郎首相と中国首脳との電話会談を申し入れているが、回答はない。政府内には「北朝鮮をかばい続けてきた中国も、今回は困っている」(外務省幹部)との観測や、中国が対北経済・金融制裁へとかじを切るのではないかとの期待感も出てきた。
「中国は今、貝になっている。中国要人ともなかなか会えないし、会っても中身のある話にならない。中国側からは、どうするつもりか何も伝わってこない」
政府筋はこう明かす。中国は現在、必死に世界各国の対北朝鮮への対応方針を情報収集・分析しているところだとの見立てだ。電話首脳会談に関しては、日本だけでなく他の国ともやっていないという。
核実験当日の25日、中曽根弘文外相がハノイで中国の楊ケツチ外相と会談した際も、楊氏は「日本の立場に真剣に耳を傾け、引き続き日中間で協議したい」と述べるだけで「何も言えないという印象」(日中外交筋)とされる。
中国と北朝鮮は表向き「血の友(ゆう)誼(ぎ)」と呼ばれる同盟関係にある。4月の長距離弾道ミサイル発射の際も、中国は国連安保理決議に反対し、法的拘束力のない議長声明での対北非難に落ち着いた。
ただ、その同盟関係は微妙で、「中国は議長国を務める6カ国協議からの脱退を宣言され、反対していた核実験も強行されてメンツをつぶされ、ミサイル発射時とは比べものにならないほど怒っている」(同)。
ミサイル発射のときは、北が「人工衛星」を主張したため、中国は「北朝鮮はああ言っていることだし」とかばうことができた。だが、今回は核実験成功を祝う大会まで開催しており、正当化しようがない。また、国際社会でともに孤立してまで北をかばうメリットもない。
今回、中国はすでに安保理での決議自体は認めており、焦点はどこまで強い内容の決議にできるかだ。
「北朝鮮に一番効くのは経済・金融制裁、ドルの出入りを止めることだ」(政府筋)という点では、世界の見方はほぼ一致する。実行できるかどうかは、北と地続きで国境を接する中国の「本気度」次第だ。
「今(日朝貿易総額は)8億円程度しかなく、かなり減ってきている。その分だけ他の国で急激に増えているところもある」
麻生首相は28日の参院予算委員会でこう指摘した。国名は伏せたが、中国を念頭に置いたのは明らかだ。中朝貿易総額はここ数年伸び続け、「現在は3000億円もある」(外務省首脳)という実態がある。
政府は「中国はとりあえず様子見だが、金融制裁など実効あるムチを使う可能性はある」(外務省筋)とみて、中国の出方を注意深く見守っている。(産経 阿比留瑠比)>
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