自由社版の『新編 新しい歴史教科書』を全文完全収録しての市販本です。
特別寄稿は三笠宮寛仁親王殿下が寄せられ、つづけて「日本を読み解く15の視座」として櫻井よしこ、加地伸行、加瀬英明、村松英子、石平、田久保忠衛、宮崎正弘、高山正之、黄文雄、宮脇淳子、川口マーン惠美、西尾幹二、堤堯、井尻千男、中西輝政の十五人が書き下ろしの新稿で総合的に真実の歴史を立体化している。
カラー写真が豊富に用いられているのも爽快である。
▲「搾取」とか「原始共産制」とか左翼イデオロギーの配列と無縁
二日がかりで『新しい教科書』を読んで「嗚呼、ようやく日本人の手になる本物に近い歴史の叙述がある」と率直に感動した。
神話も仏像も、神社仏閣とともに、水墨画や日本の仏教美術の粋が、カラーでふんだんに配されているのも特色だが、敗戦後の日本の精神を萎縮させてきた、自虐的姿勢が払拭されている。
これを読めば、日本の若者はなんとか祖国への自信が持てる。採択する学校が増えることを祈りたい。
以下、通読していくつか気になったことを書く。
第一は日本の矜恃の回復に努めていること。冒頭に「旧石器時代」が日本にあったことを特筆している。原始社会は原始共産主義制度だったとして、左翼歴史学が否定してきたものだ。高松塚とキトラ古墳、出雲大社が大書されて、各チャプターの扉には弥勒菩薩、月光菩薩、阿修羅像など世界に誇るべき日本の美が紹介される。反戦的な、風刺的な、歴史を斜に構えてみる意図がない。左翼教科書への正面からの反撃である。
第二に日本の歴史の古さと素晴らしさを、図解を多用して説明風よりもヴィジュアルな効果を上げていること。縄文式遺構や古代の住居の再現、吉野の里遺跡の詳述がある。
魏志倭人伝も取り上げるが「不正確な内容も多く」と注釈があり、金印が朝貢の証拠とする従来の主張から「日本は、こうした中国の皇帝を中心とする東アジアのきびしい国際関係の中に組み込まれていた」と「考えられる」と保留条件をつけている。「神武東征」に関してコラムで一ページが割かれる。
「搾取」だとか「上からの徴税」だとか、へんな表現は一切ない。
▲日本が中国文明から抜けでて独自の文化圏を築いた過程を浮き彫りに
第三に古代から中世にかけ、徐々に日本が中国の影響圏を抜け出し、独自の文明と文化を築き上げていく過程が要領よく説明される。
和同開珎は「中国についで二番目の貨幣」。「大宝律令は」は中国の法的体系が基礎にあっても、「令」は日本独自のものだった、という説明や、長安をまねた奈良も平安京も中国のような「城壁」がないという日本独自の構造。聖徳太子以来の平和をのぞむ国民性がそれとなく示される。東大寺の大仏開眼、シルクロードと仏教文化など世界的展望の同時性も重視されている。
西安の兵馬埇を見て圧倒される西欧人が多いが、ならば三十三間堂の千体仏は?
第四に武士の興隆、鎌倉幕府の意義がまじめに説かれる。建武の中興が「建武の新政」と表現されるのは文部科学省とのぎりぎりの妥協だろう。しかし南北朝の解釈も客観的である。
「勘合貿易が停止すると倭寇がふたたび盛んになったが、その構成員は、殆どが中国人だった」という重要な記述も、従来の倭寇=悪=日本人説を覆す。
第五に戦国乱世から国家統一のプロセスを「世界を二分割するスペインとポルトガルの野望」を前段にみて、応仁の乱からキリスト教の伝来、信長と順を追うので、これまでの歴史解釈のように信長がキリシタンの布教を認めたのが正義という印象は希釈されている。
ただし秀吉の朝鮮出兵については明の野望に対する予防戦争という側面が記述されていないのは不満が残った。
第六に近代から現代という、もっとも論争が繰り返される箇所だが、明治維新から近代国家への衣替えも、左翼史家が得意だったブルジョワ革命、フランス革命との比較がなく、淡々と事実をのべ、幕府派と薩長のパワーバランスと改革への熱情を述べる。
歴史を予見にみちた「解釈」ではなく、イデオロギー的ないし宗教的予断を極力排斥して、人間の流れの中に捉え直しているのだ。
▲大東亜戦争と正面から近代史を捉えている。
大東亜戦争の記述にも注目したが「大東亜戦争(太平洋戦争)」、また「日中戦争(シナ事変)」と、このあたりの名称の付け方はまだまだ文部省との闘いの跡が鮮烈に見て取れる。とはいえ他の左翼教科書は米国の司令した「太平洋戦争」史観で塗りつぶされている。
本書は「大東亜会議」にきちんと言及し、また「日本を解放軍として迎えたインドネシアの人々」という、これまでの左翼教科書には出てこない事実が書かれている。
東京裁判史観も、「平和に対する罪」など事後法による非合理性、国際法違反という側面に触れ、パル判事が無罪を主張した経過、戦後GHQの思想改造など、説明がなされている。
南京大虐殺の嘘に関しては記述がないが、満州成立過程も前段にヒトラーとスターリンという二つの全体主義、中国の作為的な排日運動、満州事変から廬講橋事件へと至る因果関係の説明に重きが置かれており、局所的に切り取って関東軍の横暴だとかの誤った記述がない。
満州事変の詳述は、やや平坦で日本軍の評価に冷淡なきらいも残るが、大きな流れのなかで当時の日本の安全保障がかかっていたことが了解できる。
第七に巻末付録だが、台湾にダムをつくって貢献した八田與一、トルコ船の難破を助けたエルトゥールル号事件へのトルコ国民の感謝など、従来一切の記述がない歴史的功績が顕らかに掲載されている。
総じて前向き、日本の歴史の良さを積極的に評価して、世界貢献に尽くそうとする日本人の使命感を湧かせる。一部の記述には依然として文科省との妥協の足跡も見られるが、いま一番大事なことは、この立派な教科書を、全国でどれだけの教育委員会に採択させるかという主要敵=日教組との闘いである。
この市販本は全国の書店で来週から販売され、すでに数万部の予約があるという。ひとり数冊買ってまわりに贈ろうという運動も始まっている。。
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