3434 金正日死去後に権力闘争の可能性 古沢襄

ここにきて北朝鮮の情報筋から金正日総書記の後継者に三男の金正雲氏が決まったという説がひんぱんに流れている。地下核実験、ミサイル発射など暴走している北朝鮮は、金正雲氏の擁立に走る軍部強硬派の流れに乗っているとみられる。
これに対して韓国の中央日報は、「金正雲、軍牛耳れず…金総書記死去時に権力闘争の可能性も」と分析している。仮に金正雲氏が後継者に指名されても、軍部強硬派の傀儡と化する金正雲体制は、金正日総書記の死亡によって、タガが外れた権力闘争に突入するという見方である。
中国や米国の北朝鮮ウオッチャーにも同様な見方が根強くある。
2009年2月15日、韓国の聯合ニュースの報道によれば、金正日の健康が悪化した際、義弟の張成沢が金正日に正雲を後継者にするよう働きかけたという。その半面、張成沢夫人で金正日の実妹の金敬姫は、長男の金正男氏の後見人と見られていた。後継者レースから脱落したといわれる金正男氏だが、米国筋には依然として金正男説が残っている。
もっとも労働党の要職にある金敬姫が平壌市内で交通事故に遭って重傷を負った説や重いアルコール依存症にかかり、フランスで 治療を受けた説もあって、後継者レースでの発言力が失せたという否定的な情報も流れた。真相は藪の中と言ってよい。金正雲擁立を目指す軍部強硬派の流言なのかもしれない。
韓国メデイアでは通信社の聯合ニュースが、早くから金正雲後継で走っている。一方、中央日報は、これまでも後継レースから脱落したといわれる金正男説を捨て切っていない。
日本のTBSがマカオで金正男氏の単独取材をして「人工衛星の“打ち上げ”について私は情報を持っていない。ただ、国際社会の反応を注意深く見守っている」「各国間で、北朝鮮に対する緊張がさらに増すことをとても心配している」「もし私が後継者だとしたら、私とマカオで会うことはないだろう。私はただの自由人だ」という発言をそのまま中央日報の記事にしている。
その脈絡で今度の「金正雲、軍牛耳れず…金総書記死去時に権力闘争の可能性も」の分析記事を読むと面白い。まさに聯合ニュースとは、対照的な見方といえる。
<複数の国会情報委員会委員が伝えたところによると、韓国の情報機関、国家情報院(国情院)が今月1日午後、国会情報委員に電話で「北朝鮮が最近、海外公館に金正日(キム・ジョンイル)国防委員長の三男、金正雲(キム・ジョンウン)を後継者に指名したと通報した。これは信憑(しんぴょう)性のある情報だ」と知らせた。
情報委員は「国情院が電話で敏感な北朝鮮関連情報を知らせたのは非常に異例のこと」とし、このように伝えた。ほかの情報委員は「国情院も金正雲が後継者になるだろうとだいぶ以前から分析してきたと聞いている」とした後「金委員長が好むだけでなく、次男の正哲(ジョンチョル)より能力があり豪放な性格とされる」と説明した。
国情院の「電話」は、これまで続いた「金正雲後継説」について、同氏が金委員長の後継者だと公式に指定したことを意味する。しかし、北朝鮮専門家の間では「金正雲後継」を、3代世襲の完成というよりは「世襲作業の出発点」という見方が多い。北朝鮮で権力の地形の再編が始まったものの、後継を構築する過程が定着につながるか、韓半島の不安定性の拡大に進むかの岐路と見なすべきだということだ。
金委員長は2006年までも「後継をめぐる議論」を禁止した。そうした金委員長が早期の後継構築に乗り出した背景には、結局、昨年金委員長の脳卒中など健康異常が働いたというのが大方の見方だ。
この過程で呉克烈(オ・ククリョル)国防委副委員長、張成沢(チャン・ソンテク)国防委員(朝鮮労働党行政部長)、崔益奎(チェ・イッキュ)党宣伝扇動部長ら金委員長の最側近らが再登場、スタンスが強められ、北朝鮮のパワーエリートの配置が「後継保衛体制」に変わりはじめた。相次ぐ核実験などと言った強硬策も後継を視野に入れた「内部結束」や「軍部の支持を確保するためのもの」という見方が強まっている。
しかし「金正雲の後継」は長期的には対外政策を硬直化させる可能性がある。
大半の北朝鮮専門家は、金正雲が権力を継承しても、父のような「軍への支配力」は早期に確保できないものとみている。結局、軍の対外政策への影響力が増大されうるということだ。金正日(キム・ジョンイル)国防委員長が政敵の粛清や権力機関への影響力拡大などで、金日成(キム・イルソン)主席の生前にすでに「父子共同政権」を作った経歴を、20代の金正雲は持つことができなかった。
世宗(セジョン)研究所の南北(韓国・北朝鮮)関係室長、鄭成長(チョン・ソンジャン)氏は「金正雲時代には、軍が反対する核放棄は実現しないと考えるべき。開城(ケソン)工業団地などといった太っ腹な対韓政策も容易ではないだろう」という見方を表した。「軍が反対したが、開城工団の造成を決定した」とした金委員長の支配力が、息子にもつながるかは不透明だということだ。
韓半島に及ぼす影響も今後重要な要素となる。後継者に向かった「忠誠競争」がいつでも「権力闘争」に変わりうるからだ。金正雲の後継が定着するためには、父の健在と支持が必須だ。
京畿(キョンギ)大学・南柱洪(ナム・ジュホン)教授は「金委員長の健康が突然悪化または死去する事態が発生し、軸が揺れる場合、長男の正男(ジョンナム)、次男の正哲(ジョンチョル)と縁があったグループが、金正雲を支援するグループと権力闘争に突入できる」と指摘した。この過程で「第2の黄長燁(ファン・ジャンヨプ 97年に韓国に亡命した元北朝鮮書記)」のような北朝鮮指導部一部の離脱も念頭に置くことができるということだ。(中央日報)>
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