新型インフルエンザの世界的な拡散が懸念される中、厚労省が、第二波を想定した対策を具体的に検討していることが分かった。
ニュースソースは明らかにできないが、未発表のものである。入手した資料には作成した担当組織名(医療指導班)、日付(平成21年6月9日)も明示。ところどころボールペンでのメモ書きもあり、会議で何が検討課題となったかをうかがわせる。
資料のタイトルは「『区切り』後の医療体制について」(案)。この「区切り」というのは、第一波が一段落した後、という意味である。
検討資料は、2つのパートから成る。
1. 第二波における医療体制について
2. 第二波に向けた医療体制の整備について
まず、パート1。
≪区切り後の期間について≫
・原則として通常の医療体制を強化する体制で対応する。
・ハイリスク者(ほかに基礎疾患があり抵抗力が落ちている人)が感染した場合は重症化する可能性が高まるため、院内感染を強化して、この患者を守ることを周知する。
○外来部門
・発熱患者と患者とその他の患者を分ける。診察の時間帯を分ける。(中略)療養中に悪化した患者については、速やかに入院させる。
○入院部門
・(前略)患者に入院治療の必要性を認めなければ、投薬を行い、極力自宅での療養を勧める。
≪第二波の立ち上がりの時期について≫
・医療体制を段階的に強化する。
(メモ書きで、「5000床、ICU=集中治療室を7~9月に増やす—」)
つまり、ここ3ヶ月で5000ベッドを収容できる集中治療室を作ると言う。医師は? 監護師はどうするのか。触れていない。
・都道府県は、患者が増加して収容能力を超えた場合に備え、(中略)患者の自宅療養体制を検討する。
(後略)
≪第二波について≫
・医療機関は、長期処方、早期入院など、ハイリスク者を保護する施策を強化する。
以上がパート1の骨子であるが、これを当初の行動計画(ガイドライン)と較べると、まず、「検疫」が姿を消していることに気がつく。WHOが再三にわたって、検疫が無意味であることを指摘していたが、やっと国際的な常識を理解したと見える。
事実、国内感染者の中には、検疫をすり抜け感染を拡大したケースがあり、効果のない対策に地道を挙げていたことのおろかさに気がついたのかもしれない。しかし、この資料を見る限り、「検疫は行わない」と明確に水際作戦を反省する文言は見当たらない。
感染者と濃厚に接触した人たちを、ホテルなどに事実上、隔離・軟禁した「停留対策」の「て」の字も、ない。マスクノ{マ}の字もない。やっと学習したと言うべきか。
ところが、「国内の防疫・治療対策は地方自治体の責任と言う感染法の趣旨を枉げるところまでは踏み込まず、まだビビッてる。それどころか、相変わらず「外来部門の院内感染対策を徹底する」と責任を押し付けている。
地方の病院では、施設の改造は簡単にはできない、そんな予算もない、新型インフルエンザにかかりっきりになるドクターもナースもいない—。そこでさすがに気が引けたのか、パート2でこう述べている。いよいよ対策の結論である。
2.第二波に向けた医療体制の整備について
≪ハイリスク者の支援≫
・電話相談や自宅訪問などにより患者を支援する体制を整備する。
・ハイリスク者が優先的に入院できるよう感染率に応じたベッドを整備する。
≪院内感染の防止≫
・発熱患者と他の患者の動線が重ならないように入口を分ける。経過観察室(陰圧化を含む)を整備するなどの構造変更の支援を行う。
(陰圧化:感染者がいる室内の細菌が外部に流れ出し、拡散することのないよう、室内の気圧を下げるための工事。特殊な工事技術が必要で、土建屋にはできない)
≪医療体制の強化≫
・ICUの重症者に対応できるベッドの増床、人工呼吸器の追加備蓄。
・感染症診療に対応できる医療従事者の研修。
要するに、設備については「支援」、つまりカネは出そう、医師や看護師の教育もしましょう」と至れり尽くせりのように見える。しかし、この項のところに、ボールペンで小さく「Dr. NS 不足」とメモってある。Dr.はいうまでもなくドクター、NSはナースの略である。
多分、「そんなこと言ったって、もともと医者や看護婦が足りないと言うのに、第2波までに、教育なんてできるのか」と誰かが言ったに違いない。長年の医師不足のつけがこんなところで、回ってきたのだ。
加えて、驚くべき添え書きのメモがある。
「第2波が来る前に、10月から医療体制を切り替えることを考えている」お前は神か、手品師か。通常のお役所仕事のペースでは無理だろう。相変わらずの、医系技官による「作文」としか言いようがない。
折りしも、世界保健機関(WHO)のフクダ事務局長補代理は9日の定例記者会見で、新型インフルエンザの現在の感染状況について「世界的大流行(パンデミック)に極めて近い状態にある」との認識を示した(ジュネーブ9日共同)。
さてどうする?
引き続き、前述の対策がどのような前提で作文され、検討の俎上に載ったのか。添付資料の数字を中心に、紹介する。
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3461 感染症第二波想定対策の全貌(上) 石岡荘十

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