新型インフルエンザの警戒水準についてWHO(世界保健機関)は、日本時間6/12未明、最悪レベルの「フェイズ6」、世界的大流行を宣言した。(各紙)
このような警戒水準はどのような基準で決められるのだろうか。
今回の宣言に先立って、フェイズ「3」から「4」に引き上げられたのは、4/27。この際の基準は、「豚インフルエンザのウイルスがヒトに感染したことが確認されか」どうかだ。
その後、「4」から「5」への判断基準は、「少なくとも2つの国家でヒトからヒトへの感染が確認できたかどうか」で決まる。それが宣言されたのが4/30(日本時間4/29)。“震源地”とされるメキシコと、国境を接するアメリカで発症が確認されたのだ。
日本では、海外旅行を含め人動きが激しくなる大型連休を控えていた。このため、厚労省は、午後4時、記者会見をすると共に、事前に作ってあったガイドラインに沿って成田空港をはじめ関空、中部で「水際作戦」に着手する騒ぎとなった。
テレビは一日中、防護服に身を固めた検疫官の雄々しい活躍ぶりと、1億総マスクマンとなった漫画のような映像を流し続けた。
そして5/8、遂に、ノースウエスト機でデトロイトから成田に帰国した感染者を捕捉したのだった。この人は患者「第1号」の栄誉に浴したが、じつは3日前に、渡航歴のない感染者が、他に国内にいることが後に判明した。
つまり、成田で捕捉した人は“名誉ある”第1号ではなく、検疫が手柄をあげる以前に、すでに国内にウイルスが拡散していたのではないかと疑われる結果となった。
そんなどたばたの中、世界中で感染者は増え続ける。先月末ころから「5」から「6」への引き上げ(raise up)は時間の問題だと言われていた。
では引き上げの決め手は何か。
夏を迎える北半球では、ヤマ場を越えたと判断される報告が寄せられる一方で、冬に向かうオーストラリアやチリ、アルゼンチンなど南半球の各国、特にオーストラリアでは毎日100人を越える感染者が出ている、との報告である。
パンデミック、文字通り北半球と南半球の2つ以上の大陸を股にかけての「世界的な規模」の感染拡大が、「6」への引き上げ宣言に踏み切る条件を満たした、と考えられている。
この騒動で一躍、男、いや女を上げたのがWHOのマーガレット・チャン事務局長である。中国人(香港人)で、カナダ・ウエスタンオンタリオ大学卒。本名・陳馮富珍(61)。
WHO執行理事会は2006年11月、中国政府が推した彼女を事務局長に指名、その後の選挙で加盟193カ国中2/3の賛成票を獲得して当選した。国際機関のトップへの中国人選出は初めてだ、と当時話題をさらった。任期は5年。このとき立候補して、蹴落とされたのは、同じWHOの西太平洋事務局長だった日本人、尾身茂氏だ。
2007年9月、産経新聞の福島香織記者は、ブログで、「(中国は)金で票を買った、とは言いすぎだが、中国が国策として国連の重要職を1つずつ手に入れていくという強い意志の元、十分な作戦を練ってきたのは確かだ」「日本の甘さ見たね」と皮肉っている。
チャン氏は、78年に英統治下の香港政府入庁。94年6月から03年8月まで香港政府衛生署長を務めた。97年の鳥インフルエンザ流行では陣頭指揮に当たって、150万羽の鳥を焼却して感染拡大を防いだ“猛女”として勇名を馳せた。
一方、尾身氏は任期満了に伴いWHOを退官後、母校の自治医大教授。政府の新型インフルエンザ対策本部専門家諮問委員会委員長を務め、厚労省の医系技官に対するアドバイスを行っている。
しかし実質的に役に立たなかった行動計画(ガイドライン)について、「最悪のケースを想定して計画をつくるのは危機管理上当然のこと」と厚労省の対応を弁護するような発言をしつつ、「病原性に応じた2、3パターンの行動計画があれば、どのようなタイプの新型が発生してもある程度対応できるだろう」と今後の課題に挙げている。(5/30下野新聞)
しかし、入手した医系技官に対する尾身氏からのメールを見ると、間違えば責任を問われかねない具体案を示しているわけでなく、研究者の間では、「専門家として無責任だ」と不評である。
「6」への引き上げについて、日本や英国から「チリ的な感染拡大だけで警戒水準を判断するのは適当ではない」との指摘もあると伝えられている(6/12産経新聞)。政府の意向に影響力のある尾身氏のチャン氏に
対する怨恨、嫌がらせと見るむきもある。
本来、軽度、中度、重度と3つに分類しているインフルエンザの症状について、日本からの指摘が気になったのか、WHOは、今回に限ってだと思うが、新型インフルエンザを中度に“格上げ”してフェイズ引き上げの理由にしている。チャン氏が尾身氏に気を使ったと勘ぐるのは、穿ち過ぎか。
それにしても、オーストラリア現地の医学生(日本人)からのメールでの情報によると、「総感染者数(判明者のみ):1263名 うちVictoria州(主にメルボルン周辺)で1011名となっています。
メルボルン周辺ではもう歯止めがきかなくなっており、治療方針も確定診断のための更なる検査は不要となりました」「南オーストラリアでは特に感染流行地域(特にメルボルン)から戻ってきた場合は自主的に自宅で1週間のQuarantine(隔離=謹慎?)を勧告しています」という状況だそうだ。
サッカーワールドカップのアジア最終予選が、17日、そのメルボルンで開催される。日本選手は全員マスク着用なんてことはないと思うが—。
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3482 「フェイズ6」への判断基準 石岡荘十

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