3486 海外旅行も人民元を持参する日が来る? 宮崎正弘

日本人が外国旅行へでる際に、これまで親しんできた米ドルやユーロに代替し、日本円ならともかく、中国の通貨(人民元)を海外旅行に持って行く日が来る?
十年後、米ドルは大暴落を起こして世界市場から消えるか、金本位の新ドル札が登場するか。あるいはエスペラント語のように理想の世界通貨が実現されているか?
09年三月に中国人民銀行総裁の周小川が、「IMFを改革し『SDR』(特別引き出し権)を通貨に」と主唱した。大騒ぎはこの発言から始まり、欧米が周章狼狽した。五月に中国人民銀行の胡暁煉・副総裁(女性)は「『SDR債』を発行したらどうか」と提案し、またも揺さぶりをかけた。
中国の外貨準備は1兆9540億ドルだが、このうち7679億ドルが米国債権の保有である(09年三月末現在)。日本は6867億ドル、すでに中国のほうが日本より多い。
しかも長期債より短期債(なかでも財務省証券)に急激にシフトさせている。中国は米ドル建ての金融商品を長期に保有する意思がないようだ。
「2020年までに世界の外貨準備の3%は人民元に」と上海銀行監査委員会副主任。
この目標は達成可能の数字ではある。
ちなみに世界の取引通貨のシェアは08年末段階で米ドルが44・8%、ユーロが35・3%、英国ポンドが9・3%、そして日本円が4・3%、スイスフランが1・7%となっている。従って中国当局の野放図なほどの剛気はともかくとして、人民元はまだ世界通貨の片隅にも評価されておらず、国際決済に人民元を使う動きはない。
△着々とするみ人民元経済圏形成
そこで中国は「ドル基軸体制に代替する」と放言しつつ、他方では六カ国の中央銀行と「通貨スワップ協定」を結んだ。くわえてバーター貿易的(物々交換)な決済をベトナム、ラオス、カンボジア、タイ、ミャンマーなどで行っており「人民元経済圏」を形成し、ブラジルとの間には貳国間決済の導入を合意し、貿易を人民元とブラジルレアル通貨で決済し合うとした。
これらを背景に「ドル、ユーロ、ポンドにつぐ日本円、スイスフランに追いつき、追い越し、やがては日本円を駆逐し人民元が世界第四位の主要通貨とする」と豪語するのだ。
本書(『人民元がドルを駆逐する』)では近未来の中国が狙う「通貨覇権」というシナリオを考察しながら基本的にゴールド保有を急増させている中国の金志向を勘案し、新通貨を金とリンクさせる新人民元(華元)の選択肢も本格的に論じている。
日本がまったく知覚しない地点に、いまの世界経済は進んでいる。近未来の波乱、破綻に備えるには多岐のシナリオへの対応策が必要である。=前書きより
宮崎正弘の新刊予告 6月15日発売!『人民元がドルを駆逐する』<ゴールドラッシュを仕掛ける中国の野望>(KKベストセラーズ、1680円)
 <世界通貨は大波乱!>
 ●SDR債権なら500億ドル買う、と中国が豪語
 ●ガイトナー米財務長官は北京へ飛んで「米国債は安全」と講演、失笑を買った
 ●ロシアは中国のハード・カレンシー化を支持
 ●マレーシアも貿易決済を人民元でと首相が表明
 ●ブラジルは中国と通貨決済に貳国間の取り決め
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