朝日新聞が金正雲氏の極秘訪中を報じたことについて、河村官房長官は記者会見で「コメントすることは差し控える」と述べた。政府は国交がない北朝鮮から情報確認する手立てはない。北京の大使館を通じて中国側からの確認作業をしている筈である。
米国政府も目下、沈黙を守っている。米ブルームバーグが河村官房長官の記者会見を伝えた程度である。北朝鮮情報に飛びつく韓国メデイアも沈黙している。
ありていに言えば、テレビ朝日が報じた「金正雲氏の写真」が五時間後に世界的なスクープから”世界的な誤報”になった後遺症がまだ残っているから、「朝日」のクレッジトがついているだけに慎重になっているのだろう。
といって朝日新聞報道が再度の誤報・捏造記事と決めつけるだけの否定情報も出ない。韓国メデイアは聯合ニュースのように金正雲周辺情報に強い特徴があるが、金正日周辺情報にはそれほど強くない。
それでは金正日周辺情報とは何であろうか。考えられるのは金正日ファミリーからの直接・間接情報であろう。金正日総書記は実妹の金敬姫(金慶喜)朝鮮労働党部長とその夫の張成沢朝鮮労働党行政部長を信頼していると伝えられる。
長男・金正男氏の後ろ盾といわれてきた金敬姫氏については、昨年来、アルコール依存症による重態説などが流れた。金正雲後継を急ぐ北朝鮮軍部、金正雲周辺から流された意図的なリークであろう。最近、金正日総書記と同行視察した健在な姿の写真が公開されている。
また韓国情報機関からは、四月三日頃、金正男氏の複数の側近が逮捕され、同月七日には別の側近が逮捕されたとの観測が流れた。また中国のマカオにいる金正男氏の暗殺計画も暴露されている。
これは北朝鮮の国内で金正雲氏を中心とする新たな体制を構築する動きが急ピッチで始まったとみていい。それはまた金正日総書記の病状が伝えられるよりも、かなり重篤な状態にあることを示している。北朝鮮の地下核実験やミサイル発射などは、金正雲擁立を目指す軍部強硬派の意図と連動しているのであろう。
中国は表向き、北朝鮮の内政には不干渉の立場をとる。しかし国際世論に背を向けて暴走する北朝鮮には手を焼いていると言ってよいだろう。ましてや中国が保護?している金正男氏がマカオで金正雲側近に暗殺されれば、中国の威信は大きく傷つく。また金正男氏の第一夫人の崔恵里(チェ・ヘリ)氏は北京で中国の保護を受けているという情報もある。
このような中国側の危惧が金正日総書記とよい中国高官を通して金正日氏に直接伝わった可能性がある。その時に中国は金正雲後継を認める一方でこれ以上、軍部の暴走を押さえる保証を求めたのではないか。いずれも推測の域を超えるものではないが、極秘裏に事が運んでいる可能性がある。もしかすると米国も一枚かんでいるのではないか。
北朝鮮の国内でも金敬姫や張成沢氏が軍部強硬派と妥協して金正雲後継に変わったという説が出ている。その流れの中で金正雲氏の訪中があったという観測情報はあながち誤報と決めつけられるものではない。極秘裏の工作だから裏を取ることが困難ではあるが・・・。
すべては今後、北朝鮮が三回目の地下核実験やテポドン・ミサイルの発射を行うかに懸かる。相変わらずの強行策のままだったら「幻の金正雲訪中」で終わるであろう。北朝鮮が六カ国協議に復帰すれば、極秘工作が成功したことになる。
<河村官房長官:金正雲氏訪中の朝日新聞報道、コメント控える
6月16日(ブルームバーグ):河村建夫官房長官は16日午前の閣議後の記者会見で、北朝鮮の金正日総書記の三男、正雲(ジョンウン)氏が極秘に訪中していたと朝日新聞が報じたことについて「報道は承知しているが、この件についてはコメントすることは差し控える」と述べ、事実関係を把握しているかどうかを含めて明らかにしなかった。
朝日新聞は16日付朝刊で、正雲氏が今月10日前後に北京入りし、胡錦濤国家主席らと会談し、正雲氏がすでに金総書記の後継者として指名され、朝鮮労働党の組織指導部長となっていることが同席した側近から説明された、と報じている。金総書記に近い北朝鮮筋と北京の北朝鮮関係者が明らかにしたという。
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3505 金正雲訪中、河村官房長官はコメント控える 古沢襄

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