新型インフルエンザの警戒水準についてWHO(世界保健機関)は、日本時間6/12未明、最悪レベルの「フェーズ6」、パンでミック(世界的大流行)を宣言した。
これを受けて厚労省は、これまでの政策を変更することになり、6/15、専門化諮問委員会で基本的な考え方を、明らかにした。
現行のガイドライン(行動計画)と大きく変わったのは、最重点策と位置づけている、水際での「検疫」を事実上放棄、国内政策に重点を移した点だ。今回もニュースソースは明らかにできないが、会議資料を入手したのでその概要を紹介する。
1.基本的な考え方
(前略)南半球など諸外国の感染状況を勘案すると、我国でも冬に向けて患者が大きく増加することが考えられる。このような情勢を考えて対策を講ずることとする。
(1)患者増加の端緒とウイルスの変化(変異)をできるだけ早く探知するサーベイランス(調査・監視)体制を強化する
(2)未発生地域に対しても公衆衛生対策を強化する
(3)(妊婦や糖尿病、喘息など)基礎疾患のある患者の監視対策を強化する
(4)重症患者の増加に対応する病床の確保と医療提供体制を整備する
なお、これまで「初期の患者多発地域」と「重症化防止に重点を置く地域」の2つのグループに分けていた、グループ分けは廃止する。
2.地域における対応について
(1)発生患者と濃厚接触者(患者と密接な接触があった人)への対応
原則として、患者は自宅療養する。保健所は健康観察をし、感染拡大のおそれがある場合は必要に応じて入院させる。基礎疾患のあるものについては、抗インフルエンザ薬を投与する。
医療従事者(医師や看護師)や初動対処要員はインフルエンザの症状が出たときには、薬を予防的に投与する。
【筆者コメント:患者や疑いのあるものは直ちに入院、隔離し、濃厚接触者は一定期間、ホテルなどに閉じ込める停留する、大袈裟で世界から奇異な目で見られていたばかばかしい方法は、ここでやっと放棄することとなった】
(2)医療体制
・発熱相談センターの運用については、都道府県で決定する。
・患者が増加したときは、原則として、全ての一般医療機関で患者の診察を行う。公共施設野外テントなどの医療機関以外のところに発熱外来を作るかどうかは都道府県が検討する。
・病院の外来では、発熱患者とほかの患者が接触しないよう受診待ち区域を分け、診療時間も分ける。
原則として感染症指定医療機関以外の一般入院医療機関でも、重症患者の入院を受け付ける。都道府県は発生見込みに応じた病床を確保する。
【地方自治といえば恰好はいいが、「地方の実情を知らない中央官僚が、箸の上げ下ろしまで指示するのはけしからん」という、地方の不満を逆手に取った“丸投げ”である。「自分の責任でやりなさい」だ。中央の“有能な”医系技官の手に負えなくなったということなのかもしれない】
(3)学校・保育施設等
・学校・保育施設等で患者が発生した場合、その設置者の判断で臨時休業を行う。感染拡大防止のため必要と判断した場合には、都道府県が休業の要請をすることができる。
【筆者コメント:ここでも、丸投げだ】
3.サーベイランスの着実な実施
(1)感染拡大の早期探知(中略)
(2)ウイルスの性状変化の監視
・病原性や薬剤耐性など、ウイルスの性状変化に対する監視を実施する。
【筆者コメント:新型インフルエンザウイルスに限らず、ウイルスは蔓延の過程で、変異を遂げたり、大量に抗インフルエンザ薬を投与することによってウイルスは耐性を獲得したりする可能性が高いといわれる。そのような場合、防疫体制(公衆衛生、医療手段)を見直さなければならなくなる】
(3)インフルエンザ発生傾向の把握
(略)
4.検疫
・現状においては世界的蔓延の状況にあると認識し、今後の防疫の方針を入国者への注意喚起と国内対策との連携に重点を置いた運用へ転換する。
・入国者に対し、健康カードを配り個人として感染予防に注意するよう周知する。
・濃厚接触者については、健康監視を継続する。
【筆者コメント:「検疫」については当初からWHOが無意味だと指摘していたが、厚労省はガイドラインに書いてあるからと譲らず、日本では「ジャパニーズ・インフルエンザ」という別の感染症が蔓延しているらしいと、世界から皮肉られていた経緯がある。
また、マスクについても「マスク着用が予防に役立つと言うのは神話に過ぎない。さすが神の国」とWHOのプレスリリースで揶揄され、世界に恥をさらしていたのだった。で、やっと「方針転換」と来たのだが、決して「間違いだった」とは認めていない。そういえば昔、「退却」と言えず「転進」と言い逃れていた軍隊の話を聞いたことがある】
以上が、(案)の概要である。本文のほかにA4 6枚の資料が添付してあるが、地方が体制整備をするために必要なヒト、モノ、カネはどうするのか。どこにも書いていない。
後者の二つ、モノとカネは、いま「エイ、ヤッ」とその気になれば、第2波襲来に間に合うかもしれない。しかし、「ヒト」の手当て、医師や看護師の増員は、間違いなく間に合わない。
混迷する政局とのダブルパンチで、国民はこの秋、「ミゾーユ」の災害を覚悟しなければならないかもしれない。
「案」は、
・6/18 大臣への説明
・6/19 閣議後記者会見で発表
の予定になっている。
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