3527 日本から外科医がいなくなる 石岡荘十

NPO、「日本から外科医がいなくなることを憂い行動する会」(略称:CENS)が旗揚げし、医療制度の改革に向けて運動を展開することとなった。
理事に、もと東北大学病院長で日本外科学会理事長の里見進氏、もと慶應大学医学部長で来月国際医療福祉大学学長に就任する北島政樹氏らが名を連ねている。
CENSによると、日本では平成16年現在、医師の数は256.668人で、この8年間に11パーセント増えている。だがこの医師の数はOECD各国の平均に達しない。日本では、あと14万人の医者が必要だと言われる。
この8年間の診療科別の増減を見ると、社会問題となっている産婦人科が1パーセント減の横ばい(12.000人)、小児科が6パーセント増の34.600人)、足りない足りないと言われる麻酔科はそれでも26パーセント増となっている。
ところが外科系(外科、心臓血管外科、呼吸器外科、小児外科)は2パーセント減の27.000人にとどまっている。そんな中で、外科はその後も特に学生の間では目立って人気凋落の一途をたどっている。
2007年の日本外科学会による学生に対するアンケート調査によると、外科志望が減少する理由はこうだ。
1.労働時間が長い
2.時間外勤務が多い
3.医療事故のリスクが高い
4.訴訟のリスクが高い
その割に、
5.賃金が少ない
複数回答で、ほぼ7割の学生がこの5つを、外科を敬遠する理由に挙げている。
学生たちに、将来目指す診療科を聞くと「第三ナイ科」だと応えるそうだ。つまり「当直がナイ、訴訟リスクがナイ、死亡診断書を書かナイ」
こんな学生が一人前の外科医になるためには、さまざまな難関が待っている。
・初期臨床研修(2年)研修医はすでに医師免許を持った青葉マーク医師なのだが、外科医を目指すものにはここからが大変なのだ。
・外科修練(2年)
・1年後に予備試験
・合格すると2年後に外科専門医認定試験
これに合格してやっと、専攻、つまり消化器外科、心臓血管外科、呼吸器外科、乳腺外科のどれかを決めるステップに進む仕組みである。
この間、順調にいって卒業後7年、30歳を超えている。大半はここまで10年の歳月を、いわば下働きでスキルを身につけていかなければならない。
「下働き」を具体的にいうと、
・助手として350例以上
・分野にかかわらず術者(執刀医)として120例以上
加えて、将来、最終的に専攻する分野がどこであろうと他の外科で、一定の実績・経験がなければ、一人前の専門医、執刀医とは認められない。
しかもこの資格は、終身有効ではなく、5年毎に書類審査だが、更新されることになっている。
こうまでして一人前になっても、どこの業界でもそうだが、できるヤツとグズがいるものだ。しかし今の日本の診療報酬体系では、ベテランも若葉マークも同じ料金。スキル、プロとしての技術力を評価するシステムにはなっていない。
名医と言われる外科医の年収はアメリカで数億円以上、日本ではその十分の一にもならない。これでは若い人が敬遠するわけだ。
一線で「神の手をもつ名医」とまでは行かなくとも、まあまあの手術をこなしている医師の三分の一が40代である。外科手術は体力勝負といわれ一面もあるから、この後、いいとこ10年でこれらの医師はリタイアすることになる。それ以上になると、メスを持つ手が震えて、危なくって仕様がない。が、後輩は育っていない、だから後が続かない。
ここでも高齢化が進行しているのである。産婦人科や小児科ばかりが問題になっているが、このままでは、日本からまともな外科医は姿を消すこととなる。臓器移植だけではなく、ちょっと難しい心臓や脳の手術は海外で—ということになるかもしれないのだ。
CENSはこんな危機感から、6/18、厚労省や内閣官房長官に要望書を提出。このなかで、「日本では外科治療、特にがん治療ができない国になってしまう。10~15年後には日本から優秀な外科医はいなくなってしまうだろう」と訴えている。
日本の医療制度改革の原案を設計し、国の医療費の配分を決めるのは、厚労省にいる250人の医系技官の仕事だが、彼らは医師免許を取得して5年以内に入省し、そのまま定年まで患者と向き合って治療する臨床の現場に出ることがなかった。いわば医師としてはペーパードライバーである。
改革を期待する方が無理と言うものである。団塊世代以上の人は、海外での治療を受ける費用くらいは、床下の壺に蓄えていたほうがいい。
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