3530 馬は人間を差別する 渡部亮次郎

秋田の農村で、子どものころ、近所で火事があり、焼け跡から飼い馬の焼死体が発見された。その時の大人たちの会話が記憶の底に残っている。
火事の時、牛は一目散に逃げるが、馬は火を見ると竦んでしまうから焼け死ぬのだ、と。実家は当時は農家だったが、父は馬を飼う事に消極的だった。伝染病に弱く、死に易いからというのだった。
果たして馬が火に弱いか否か。知りたいと思って「ウィキペディア」を散策して見たが、そういう記述に逢う事はできなかった。むしろ馬を川に入れ、高い土手から跨ろうとしたところ、馬が急に岸から離れたので、私は川に落ちてしまった。あの理由が解明できたのが拾いものだった。
馬は古くから中央アジア、中東、北アフリカなどで家畜として飼われ、主に乗用や運搬、農耕などの使役用に用いられた。食用にもされ、日本では馬肉を「桜肉」と称する。
その昔、重宗雄三参議院議長に反発する議員たちがグループを作って「櫻会」と名乗ったところ、重宗氏が「馬肉が俺にどうしろといういうんだい」と呟いたことを今思い出した。
一般に、立ったまま寝る事でも知られるが、厩(うまや)など本当に安全な場所であれば、横になって休むこともある。
寿命は約25年、稀に40年を超えることもある。繁殖可能な年齢は3-15/18歳。繁殖期は春で、妊娠期間は335日。単子であることが多い。
後年、盛岡放送局で県庁担当記者になり、それまで有名な馬産県としての種畜牧場でタネツケを見学する機会があった。可哀想な当て馬が垣根を隔てた牝馬の性器を盛んに舐めながら、歯をむき出しにして笑ったような表情をする。
あれは笑っているのかと聞いたところ関畜産課長曰く・・・。
あれを「フレーメン」といい、馬だけでなく様々な哺乳類に見られる。これによって鼻腔の内側にあるヤコプソン器官(鋤鼻器)と呼ばれるフェロモンを感じる嗅覚器官を空気にさらすことで、発情した牝(メス)馬のフェロモンをよく嗅ぎ取れるようにしているのです。
発情した牝馬の生殖器の臭いをかがせるとこの現象を容易に起こせるため、ウマのフレーメンに関する歴史的エピソードがいくつかある。また、ウマはレモンなどのきつい匂いをかいだり、初めて嗅いだにおいを嗅いだときにもフレーメンをし、牝馬もフレーメンをすることがある。
牝が十分発情している事が確認できたので牝馬は交尾の現場へ。当て馬は棒杭の如く硬くなったもののやり場とて無く腹を叩くばかり。血統が分からなくても、妻を得られる人間に生まれた事に感謝した。さっきの牝に跨ったのは専門の種馬。飽きたような表情をしていた。
馬の知能は家畜の中ではかなり高い。脳の発達度を示す指標の一つである脳化指数は犬猫に次ぎ、少なくとも長期記憶は非常に高いことが知られている。
乗り手(騎手)が初心者或いは下手な者であれば、乗り手を馬鹿にした様にからかったり、ワザと落馬させようとしたりする行動をとる事もある。
逆に常日頃から愛情を込めて身の回りの世話をしてくれる人物に対しては、絶大の信頼をよせ従順な態度をとる。大切にしてくれたり何時も可愛がってくれる人間の顔を生涯忘れないといわれる。
それを物語るつぎのような逸話がある。日中戦争中、農耕馬を軍馬として徴用された日本の農民が、自身も兵士として徴兵され中国大陸に送られた。
数年後、戦地で偶然かつての愛馬に遭遇し、馬の方が自分を覚えて懐いてきた姿を見て涙し、周囲の兵士達もその姿を見て感動した話が残っている。
馬は抽象的な思考能力はないが、微妙な人間の表情を読み取る認識能力は備えている。
終戦直後の昭和25年(1950年)に飼育されていたウマは農用馬だけで100万頭を超したがが、耕運機、コンバインなど農作業の機械化により昭和40年代初頭には30万頭に、昭和50年(1975年)には僅か42000頭まで減った。平成13年(2001年)の統計では、国内で生産されるウマは約10万頭で、そのうち約6万頭が競走馬で、農用馬は18000頭にすぎない。
平成17年(2005年)現在では日本在来馬は8種、約2000頭のみとなった。
なお、道路交通法上、馬が引く及び人の騎乗した馬は軽車両に分類される。
昔から馬を大切にしていた地方では現代でも、馬は「蹴飛ばす」=「厄を蹴飛ばす縁起物」などと重宝しているところもある。
馬に関する熟語や慣用句は実に多い。このことは有史以来馬と人間が密接に生活を共にしてきた事を物語るものである。
寝牛起馬 南船北馬 駑馬十駕 意馬心猿 馬首人身 寸馬豆人 馬子にも衣装 馬車馬のよう 馬の背を分ける  馬が合う 馬を牛に乗り換える伊達藩 馬乗りになる 馬には乗ってみよ、人には添うてみよ 
馬耳東風 馬を水辺に連れて行くことは出来るが水を飲ませることは出来ない じゃじゃ馬(駻馬) 名馬に癖(難)あり 天高く馬肥ゆ老馬の智用うべし  鞍掛け馬の稽古 将を射んと欲すれば先ず馬を射よ
人を射るには先に馬を射よ 肥馬の塵を望む 焉馬の誤まり 癖ある馬に乗りあり 人間万事塞翁が馬 尻馬に乗る 生き馬の目を抜く 犬馬の労 牛は牛づれ馬は馬づれ
老いたる馬は路を忘れず  鹿を指して馬となす(馬鹿) 痩せ馬の先走り(道急ぎ) 瓢箪から駒(駒=子馬) 千里の駒 隙過ぐる駒 馬並み 馬脚を現す馬の耳に念仏 馬に経文 馬の耳に風 2009・06・21 出典:『ウィキペディア』
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