キッシンジャーはかつての米中秘密会談で、周恩来に「日米安保条約は日本に核武装させない便法である」と言明した。そのキッシンジャーは「日本は二〇五〇年までに核武装国家になる」と繰り返し警告を発している。どちらもキッシンジャー得意の外交技術とみていい。
外交技術は力を背景にした言葉の恫喝と遊びに等しい。
日本人は二〇五〇年までに核武装国家になるとは誰も思っていない。世界で唯一の核被爆を受けた国民感情がそれを拒絶している。だがキッシンジャーが言うのは自由である。それだけではない。この言葉の遊びが中国には、それなりの影響力を与えている。
北朝鮮がやみくもに核武装に狂奔すれば、日本はいずれキッシンジャーが言う様に核武装国家になるかもしれないと疑念を抱く効果がある。小沢一郎氏がかつて「日本がその気になれば、一夜で2000発の核を保有できる」と言ったことがある。これも言葉の遊びだが、それを聞かされた中国人は顔色を変えたという。
「日米安保条約は日本に核武装させないためにある」と言ったキッシンジャーの言葉を周恩来が額面通りに受け取ったとは思えない。それほど周恩来はお人好しではない。言葉を裏返せば日本は米国の核の傘の下にあると威嚇したに等しい。言葉の遊びだが、外交面では意外と力を発揮する。
そのキッシンジャーの老練さに比べれば、オバマ大統領はあまりにも理想家肌で心許ない。良く言えば、衰退期に入った米国を象徴する大統領といえる。その言葉は美しいが、力を失った弱さすら感じる。興隆期にあったケネデイ大統領のような力強さに及びもつかない。
一時は熱狂的な歓迎ムードで迎えられたオバマ政権だが、米国内でも言葉のレトリックだけのオバマ大統領に批判的な層が増えている。支持率も低下傾向が目立っている。人気にかげりが見えたオバマ大統領に対して、かつての栄光があった米国に郷愁を持つ層が、どの様な動きをみせるか予断を許さない。
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3555 キッシンジャーの言葉の武器 古沢襄

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