3568 米側資料を基に日米関係を読み解く 古沢襄

豊田祐基子さんの「”共犯”の同盟史 ―― 日米密約と自民党政権 ――」を読み始めている。表題はオドロオドロしいが、戦後の日米関係史を主として機密扱いを解除された米側公文書を基にして、日米両国の文献を読み解き、インタビュー取材で補強する手法をとった力作である。
同じ様な手法をとった力作でドン・オーバードーファー(元ワシントン・ポスト国際記者)の「二つのコリア(THE TWO KOREAS)がある。国際政治の中で漂う朝鮮半島情勢について、米当局者のほか中国、ソ連、欧州、日本の政府関係者、韓国、北朝鮮当局と四五〇回のインタビシューを精力的にこなし、未公開だった米政府、軍の係密資料の数々を「情報の自由法」などで入手して実証的に明らかにしている。
日本版(菱木一美氏が翻訳)は一九九八年のものだが、一〇年の歳月を経てもその価値はいささかも損なわれていない。
豊田さんは二〇〇六年から一年間、米ジョンズ・ホプキンス大学の高等国際問題研究大学院に留学、エドウイン・ライシャワー東アジア研究所の客員研究員でもある。この間、同研究所のケント・カルダー所長、米国家安全保障公文書館のロバート・ワンプラー博士、ウイリアム・バー博士などの指導を受けて、オーバードーファー氏と同様に「情報の公開法(FOIA)」の膨大な資料を読み解いている。
まだ読み始めたところなので、その折々に内容の紹介をしたいと思うが、私が興味を持ったのは、吉田政権から鳩山政権に移行する過程で駐日米大使のジョン・アリソンが米国務省に発した極秘公電である。
私たちは通算七年二ヶ月にわたる吉田政権に倦み飽きて、庶民的で明るい鳩山一郎氏の登場を喝采をもって迎えた。新政権は「憲法改正」と「自主外交」を政策の中心に据えて、日ソ国交回復に向けて取り組んだ。
しかし在日米大使館は苦々しい思いで鳩山首相の「独立志向」を見詰めていた。アリソンの公電は「鳩山は感情的で、国際情勢にうとく、大衆の称賛を好む」「新政権は米国の利益を無視し、共産圏に譲歩してばかりいる。日米関係の現状には(米国は)不満だと分からせてやる必要がある」と露骨に鳩山政権を批判していた。この米国の態度は日本側資料では浮かんでこない。
その半面、幹事長の岸信介氏にはアリシンは「恐らく最も鋭敏な政治家」と評価している。米側との交渉で岸氏は「必要なのは保守勢力の結集と防衛力の増強だ。そうすれば、米軍撤退と憲法改正は容易になるでしょう」と言い切っている。帰国した岸氏は保守勢力の結集に取りかかる。五五年体制の前夜の動きを米側資料が裏付けていた。
日本は今、政権交代が可能な政治情勢を迎えている。米側からは鳩山民主党政権が誕生すれば、”反米傾向”が現れると露骨な拒絶反応もかいま見える。いつか来た道ではないか。それはそれで日本国民が選択するのであれば、米国離れもやむを得ない。鳩山元首相が目指した独立志向が、どの様な形で鳩山民主党政権で具現化するのか、歴史は繰り返すといえそうである。
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