古澤襄さまの掲題(イスラエル潜水艦のイラン攻撃可能性について)に関する記事について、僭越ながら少しく疑問を呈させていただきます。
地中海からペルシャ湾最深部までの航続距離は概ね3,500浬で、ドルフィン級潜水艦の公称航続距離8,000浬でも充分に往復可能です。また、無補給航海限度とされる30日はかなりアバウトなものです。帝国海軍の潜水艦は60日で設計されていましたが、片道約90日をかけて日本(及び占領下のシンガポール)とドイツ(及び占領下のフランス)間を往復しました。
潜水艦の燃料搭載量は主バラスト・タンク(潜航・浮上用タンク)の一部を改造して容易に増加できますし、食料は無理すれば倍以上を積むことが出来ます。(艦内の食堂も廊下もベッド脇も食料だらけになりますけれども)
むしろ困難はペルシャ湾への進入にあります。入口のホルムズ海峡は可航幅が狭く商船でも気を遣います。まして潜水艦がイランの警戒下を潜航のままで入っていくことは相当に難しいでしょう。
しかしイスラエル海軍は、国家存亡の危機感の前ではチャレンジする価値があると考えるのではないでしょうか。
(古沢襄・追記)実戦経験ある元潜水艦乗りの藤原徳太郎さんの指摘は貴重です。イスラエル海軍が運用しているドルフィン級潜水艦は、ドイツにおいて209型潜水艦をベースに設計されたものといわれています。
現在、運用されている一九九九年就航鑑三隻は、ウイキペデイアによれば下記の能力がるといわれていますが、実際の運用状況がどうなっているかは不明です。イスラエルが同鑑の能力を公開していないのは、ドイツで建造した際に能力アップを試みて、最高の軍事機密扱いにしたためでしょう。
お説の通り、イラン攻撃に限れば、航続距離 8.000海里(水上8ノット) あれば、一撃後、給油せずに帰投することが可能です。また無補給航海限度 30日以上は、高速潜航を制限し水上航行を多用すれば大幅に伸ばすことが可能でしょう。
ただ軍事筋によれば、二〇一〇年就航の新型・ドルフィン級潜水艦二隻が加わり、五隻体制になればインド洋に三隻、地中海に二隻を常時配備すると見られています。現状でも一九九九年以来、インド洋あるいは紅海に最低でも三隻の中、一隻を常時配備しているとみられます。
地中海で運用されるドルフィン級潜水艦は、中東地域に少人数の工作員を海岸から送り込ませる任務を帯びているといいます。同時にシリアの核武装を未然に防ぐ巡航ミサイルを搭載しているのは言うまでもありません。
インド洋あるいは紅海で運用されるドルフィン級潜水艦については、やはり給油を受ける仕組みが欠かせないと思います。あるいは給油鑑の派遣がどうなっているのか、このあたりはまったく不明です。いずれにしてもイランに対する抑止効果は大きいと思っております。
ドルフィン級潜水艦の能力(推定)
艦種 通常型潜水艦
排水量 基準排水量 1.640t
水中排水量 1.900t
全長 57.3m
全幅 6.8m
全高 12.7m
吃水 6.2m
機関 ディーゼル・エレクトリック 4.300shp
速力 シュノーケル航行 11ノット
最高水中速力 20ノット
潜行深度 350m(推定)
航続距離 8.000海里(水上8ノット)
無補給航海限度 30日以上
乗員 35名
武装 533mm魚雷発射管6基
サブ・ハープーン 16発
魚雷
魚雷管発射型機雷 上記兵器と入れ替えで搭載可能
650mm魚雷発射管4基
巡航ミサイル 4発(推定)
杜父魚ブログの全記事・索引リスト
3602 元潜水艦乗りの疑問 藤原徳太郎

コメント