衆議院議員選挙の日程が8月30日に決まった。解散権は総理大臣一人の手にあり、その行使はどんな場面でも首相権限の強さを感じさせてきた。
だが、今はその力強さを感じさせる場面も盛り上がりもない。自民党政権の終焉と民主党政権の誕生の間近さが予定調和のように示されただけだ。
民主党政権誕生を前にして気になるのが同党の政策である。党内の考え方は多くの点、特に外交・安保問題で統一されていない。加えて、社民党などとの協調体制の、政策への影響も避けられない。
過日、興味深い体験をした。所用で大阪に足を運んだとき、町の至るところにポスターが貼られていた。4人の政治家の顔写真が単に紙面を4分するかたちで一枚のポスターに印刷され、「私たちがこの国を変えます!」という趣旨のスローガンが大書されていた。顔写真の主は辻元清美、福島みずほ、鳩山由紀夫、亀井静香の4氏だった。
私が訪れたのは辻元氏の選挙区だったわけだ。なるほど、民主党政権はこんな連立体制になるのかと、しばし、ポスターを眺めたことだった。
民主党政権が誕生するとして、前述のように、政策は重要なものほど党内意見の統一が図られておらず、加えてここ数年の鳩山氏の発言にはブレが目立つ。たとえば、氏の憲法改正試案には評価すべき点もあるが、疑問な点もある。この鳩山試案が民主党の憲法改正案にどのように反映されるのか、されないのかも明瞭ではない。
政治評論家で民主党事情に詳しい屋山太郎氏は、しかし、楽観的である。
「大胆に安全運転、これが政権奪取時の民主党の基本でしょう。外交・安保問題についても、従来の政策から大きくはずれることはないと思います。極論に走り、国民の信を失うような選択をするはずがないのです」
民主党衆院議員の長島昭久氏は「正論」8月号で「いま自分たちが恐れているのは、政権を担って、安全保障という国家存立にかかわる根本問題で大きくつまずくこと」だと述べている。同党衆院議員の渡辺周氏も強調する。
「党内に幅広い意見があるのは事実ですが、政権を取って国民や国際社会に不信の念を起こさせるような的はずれの政策に走ることはありません」
屋山氏は、民主党と自公の最大の違いは外交・安保問題ではなく、国内政策に表れると予測する。
「自公政権は公務員制度改革を事実上葬りましたが、民主党は本気です。国家公務員33万人、ブロック局など地方に21万人。彼らの権益擁護のために政治が歪められ、国民の利益が失われてきました。改革の意味を理解できなかった麻生太郎首相の改革案は改悪です。麻生政権の終焉で同法案が廃案になるのは、むしろ、歓迎すべきです。民主党が真っ当な改革をするでしょう」
屋山氏はさらに強調する。
「教育についても、民主党政権下で日教組路線が強まると心配する声があります。輿石東参議院議員会長が山梨日教組出身だから、そう思われるのでしょう。しかし、民主党の教育基本法改正案は自民党案よりまともでした。加えて、教育では首長の影響が非常に大きい。民主党政権イコール教育のねじ曲げではないと思います」
かつて民主党が提出した教育基本法改正案は国を愛すること、歴史や伝統を学ぶことの大切さを書き込んでいた。自公案に比べてまともだったのは確かだ。しかし、日教組的考えから脱してまともな案でまとまったのは、「どうせ野党案だ。通るはずがないからそれでよい」といって、民主党内に強かった反対論を説得した経緯もある。
こうして見ると、民主党の政策は本当に見えてこない。もはや自民党への反対だけではすまないのは明らかだ。政権を取ってどんな政策を実施するのか。選挙までの日々にマニフェストの発表を望むものだ。(週刊ダイヤモンド)
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