クリントン元米大統領が北朝鮮を訪問、金正日総書記と会談した。クリントン時代の1994年にやったカーター訪朝とまったく同じパターンだ。
これがアメリカのやり方である。もっといえば、米民主党政権の基本パターンだ。
それにしても、金正日という人は、たぐいまれな国際政治パワーを持つといっていい。一連のミサイル発射、核実験はアメリカを引き出すことに最大の狙いがあった。それを実現させてしまったのだから、その国際戦略はけた外れのものがある。
北朝鮮に拘束されている米人女性記者2人の釈放交渉のための私的訪朝だというが、元大統領が私的なことをやるわけがない。
カーター訪朝ではKEDOの枠組みが合意され、軽水炉供与と引き換えに北朝鮮は核開発をやめることになっていたが、みごとにだまされた。
それと同じ状況が、いま現出しようとしている。
このニュースを聞いて気になったのは、日本政府に事前連絡があったのかどうかということだ。私的外遊だからという建前で、おそらくは日本側になんらの通告もなかったのではないか。
アメリカは自国の国益、国家の威信の保持を、当然ながら、最大の行動指針とする。日本ではおよそそういう意識がない。だから、一般にはこのクリントン訪朝を理解できないかもしれないが、国家とはこういう動き方をするものだ。
日米同盟とはいっても、旧ソ連との冷戦が続いていた時代には、日本は盾の役割を果たした。いま、アメリカにとって日本の地政学的な重要性は薄れつつある。
まして、沖縄米軍基地の移転問題など10年たってもまったく進展のないような日本だ。集団的自衛権の行使容認にも踏み切れないのが日本だ。
そういう日本をいざというときに守るべきなのかどうか。アメリカにそうした同盟意識が薄れているのは事実だろう。都合のいい時には日米同盟強化をうたうが、応分の国際貢献にも消極的で、反米・嫌米機運が満ち溢れているような日本を、どこまで守りきる気になるか。
アメリカとしては、テポドンが米本土に届くのかどうかが最大の懸念材料である。核実験の精度が高まって、ミサイル積載可能な小型化に成功したのかどうか。そこをアメリカは慎重に見ている。米政府にとって国家の安全確保が最大の使命だからだ。
これによって、6カ国協議の枠外で、アメリカとの直接交渉を行うという北朝鮮の悲願が達成された。元大統領となれば、最高ランクである。金正日の面目躍如たるものがある。
こうなったら日本の拉致問題など、もう完全に蚊帳の外である。日本の国際戦略の希薄さを改めて痛感しなくてはならない。
さあ、この「電撃的」クリントン訪朝が、来るべき総選挙で、自民、民主のいずれに有利に働くか。マニフェストで外交・安保の扱いがきわめて乏しかった民主党は、国家運営とはいかなるものか、改めて厳しく認識しなおすべきだろう。
アメリカは自国の安全のためならば、中国とも北朝鮮とも、日本の頭越しで手を結ぶのである。それをいぶかってはいけない。それが国家というもののあり方そのものだからだ。
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3767 これがアメリカのやり方だ 花岡信昭

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