3780 想定、新型インフルエンザ第二波 石岡荘十

国立感染症研究所の主任研究官・森兼啓太氏が「新型インフルエンザ対策として今、最も必要なもの」と題した論文を会員限定のメールマガジン(MRIC医療ガバナンス学会)で発表(8/2)している。
森兼氏は5月、参議院予算委員会の新型インフルエンザ集中審議で野党(民主党)側の参考人として意見を開陳しているだけでなく、舛添厚労相の私的なアドバイザーとして、どちらかといえばこれまでの政府対策に対しては批判的な助言を行っている。
論文の中で注目されるのは、第二波の規模の想定である。森兼氏はこう述べている。
<諸外国で重症化している症例は妊婦や基礎疾患を有する成人、肥満者に多いと見られており、成人から壮年の年代で発生する患者の中から重症例や死亡例が出ることは早晩避けられないと考える。
秋になるか冬になるか、あるいはまもなくなのかわからないが、いずれ大規模な流行、いわゆるパンデミックになると覚悟しておくべきであろう。その際の患者発生数は今の患者数の比ではない。
過去のパンデミックでは、最初の大きな流行の際に人口の20-40%が罹患している。仮に2009年10月から2010年3月までの6ヶ月間に日本人の30%が罹患するとすれば、180日間に3600万人の患者が発生し、単純計算で1日あたり20万人と、桁違いの数である。
しかもこれが一様に発生するわけではない。大流行の立ち上がりは少ない数であり、ピーク時にはこの何倍にも達するであろう。もちろん全員が医療機関を受診するわけでもないが、今のままの外来診療体制ではさばききれないほど多くの患者が医療機関を訪れることは十分想定される>。
政府など公の機関で、これほど被害の想定を具体的に述べたものはない。そこで、どう対処すべきか。
<今後に向けた厚労省の新型インフルエンザ行動計画運用指針では、重症者に対する病床の確保がうたわれているが、どの程度の割合で重症者が発生するかが全く読めない以上、常時病床を空けておくなどの本当の意味での「確保」は不可能である。
入院患者が発生した時点で対応せざるを得ないだろう。それよりも、ほぼ確実に起こるであろう、外来診療における患者の急激かつ大幅な増加に備える方が優先である>
と批判している。さらに、
<学校閉鎖や接触者の予防内服などを行なって、一時的に患者数の増加を防いでも、市中で感染伝播が続く以上、それらによって罹患しなかった人たちも、いずれどこかの時点で罹患するだろう。つまり、これらの対策では罹患患者総数を減らすことは困難である>
と、切って棄てている。で、備蓄量が充分ではないワクチン接種の優先順位をどう考えるべきか。
<限られた本数をどの世代・集団に優先的に接種するのが国民全体にとって最も有益かという判断を行わねばならず、簡単な問題ではない。この問題には正解がない。
徹底的に議論して、合意を得る必要がある。諸外国では、ワクチン製造と並行して接種優先順位の議論が行われている。ところが日本ではこの議論が端緒にすらついていない。専門家が委員のグループによる会合がなぜ開催されないのか、理解に苦しむ>。
そして<今後、様々な専門家の間での議論、そして国民を巻き込んだ議論が望まれる。決して少数の人間で接種優先順位を付け焼き刃的に決定してはならない>と提言している。
さらに、ワクチンには副反応(副作用)のリスクを指摘する専門家もいるが—
<100%安全なワクチンなどありえない。1976年、アメリカではブタインフルエンザのヒト感染集団発生に対して、パンデミックの恐れありとして4000万人にワクチン接種を行ない、ギランバレー症候群の多発という副反応で死亡者まで出ている。しかし当のブタインフルエンザはその後、世界的大流行にはならなかった>
分かりやすく言えば、副作用が心配だから、少数の死者が出るかもしれないからと言って、ワクチン接種を躊躇すべきでないという提言である。
因みに、「ギランバレー症候群」は、筋肉を動かす神経に障害が起き、重症化すると呼吸ができなくなり死に至る病だ。先日亡くなった大原麗子さんがそうだったと伝えられている。
厚労省が発表したデータの最新版(7月22日発表)では、患者4,433例中10歳代が2,051例、10歳未満が878例、20歳代が761例と、この3つの年齢層が全体の83%を占める。
だから他の年代は心配ないというわけにはいかない。インフルエンザは第一波より第二波のほうが多くの重症者を出すことが歴史的に知られている。
もし第二波で<ウイルスの病原性が高くなっていて、成人や壮年層に多くの死者が出ると、社会が崩壊してしまうので、この世代を最優先に接種して社会防衛を計る必要がある。
病原性が低く、これらの世代がたとえ罹患しても早期に回復するような状況であれば、高齢者や幼児など重症化しやすい集団に優先的に接種する。このように、限られた本数をどの世代・集団に優先的に接種するのが国民全体にとって最も有益かという判断を行わねばならない>
このような森兼氏の主張はひとつの見識である。すでに、この考え方は舛添厚労相や国会の集中審議で質問に立った民主党議員に吹き込まれているに違いない。問題は、責任を負う政府がこのような見解をどう受け止め具体化するか、である。またこれから示される対応策を評価する識見をわれわれが持っているかどうか、にかかっている。
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