肉食系と草食系に分けるとすれば、約1年、麻生政権を支えてきた自民党の細田博之幹事長と河村建夫官房長官の2人は、後者のタイプである。地味で迫力に欠ける、と党内から苦情も聞かれた。
それでも、細田のほうは衆院本会議の壇上から激しく野党を弾劾する絶叫型の演説をぶって驚かせたり、折に触れメリハリをつけてきた。だが、河村は終始目立たない。派手な言動を続ける麻生太郎首相の陰に隠れた形だった。
しかし、ここにきて評判がいい。周囲は、
「内閣の番頭として、ドシーンと構えている感じがでてきた」
と言う。毎日2回の記者会見も、言葉にキレがみられる。先日のあの発言も効いているらしい。
というのは、麻生が、
「私の不用意な発言のために国民に不信を与え……」
と頭を下げたのが衆院解散当日の先月21日、4日後の25日には早くも
「高齢者は働くことしか才能がない」
と新失言が飛び出したのだ。さすがにこれはいかん、と思ったのだろう。河村は29日、都内の会合で、
「いよいよ天下分け目の戦い、オウンゴールだけは避けてもらいたい。(首相は)時々、サービス精神旺盛で言葉足らずがある」
と忠告した。最後の失言にしてもらいたい、という切なる願いからだろう。
サッカー用語である。誤って自陣ゴールにボールを入れ、相手に点を与える自殺点のことだ。河村に言わせると、
「いや、総理ご自身が日ごろから『オウンゴールを避ければいいんだな』と私に言っておられたから、ここはひと言と。あの発言も、前後の文脈を聞いてもらえば高齢者激励の趣旨なんでねえ。ご自分も分かっている。根が正直な人だから」
とかばうが、分かっているけど止まらない失言癖、ということのようだ。
地元(山口3区、宇部、萩市など)の県議からは、
「オウン何とかは意味がわからん」
と電話がかかったという。
その地元には、昨年暮れ、日帰りで1日戻っただけ、留守居役に徹してきた。帰らなくても選挙に強いのが長官起用の理由の一つ、という説もある。
最近は毎晩11時半に首相公邸に電話を入れ、報告や気分を聞いたり、かなり長話するという。
「オモシになれと期待されても、それは私には無理なんで、緩衝役というか、とにかく(首相に)気持ちよく過ごしてもらうための女房役でね。癒やし効果をと心掛けてきた。総理には『毒食わば皿までついてこい』と言われてる」
困ったな、と対応に悩んだのは、やはり思わぬ失言、漢字の読み違い、鳩山邦夫総務相の辞任、東京都議選のあと、与謝野馨財務相の直訴事件などだ。
「都議選の結果を見て、与謝野さんの優秀なコンピューターが狂ってしまった。辞められては内閣が瓦解するので、哀願しました」
なんとも、にぎやかで腰の定まらない政権だった。麻生より2歳若い66歳、暴走気味の肉食系主(あるじ)を静かに乗りこなした感じがある。自己採点は、
「及第点になるかならんか、危ないところで」
とあくまで控えめだ。
長女・恵子は福岡地検の検事、選挙違反取り締まり班に所属している。麻生のおひざ元だ。
「『違反をしたら、うちの娘に捕まりますよ』と総理に言ってある」
とジョークもいい線いっている。(敬称略)
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3783 なんとか乗りこなした 岩見隆夫

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